第38期第1回研究会「犯罪被害者をどう取材し報じるか」(メディア倫理法制部会)【開催記録】

〇日時:2021年12月11日(土)14時から16時

〇方法:ZOOMによるオンライン開催

〇問題提起者:中島聡美(武蔵野大学・精神科医)

〇討論者:大治朋子(毎日新聞)

〇司会:山田健太(専修大学)

〇企画趣旨:
新聞やテレビをはじめとする報道機関の取材や報道の態様が、市民社会から厳しい批判の対象となってから久しい。とりわけ近年は、事件・事故の被害者及び家族に対する取材のありようや、報道(とりわけ実名報道)が大きくクローズアップされている。そうしたなか、相模原、座間、あるいは京都アニメーションなどの事件においても、各報道機関はさまざまな配慮に基づいた取材・報道を行ってはいるが、根本的な解決には至っておらず、その場その局面での対処療法である点が否めない。実際、被害者に対する「配慮に欠ける対応」の代表例として「マスメディアの取材」が挙げられることが定型化している。

そこで被害者・その家族に対する取材や報道が、被害者のメンタルヘルスに影響を与える可能性がある中で、どのような対応することが望まれるのか。もちろん、まったく接触しないあるいは報道しないというという選択肢もあろうかと思うし、取材や報道はすべて警察の指示のもとで行うという選択肢もあるかもしれないが、一方で、そうした対応が被害者にとっても市民社会全体にとっても、決してよいようにも思えない。そうしたなか、専門家の立場から、どのような解決策があるのか、その道筋につながるヒントをお話しいただき、現場の記者とともに議論を深めたい。

具体的には、最初に20~30分程度の以下の点で問題提起をしていただき、『歪んだ正義』などでトラウマ問題に取り組む大治記者からコメントをもらったうえで、1時間から1時間半程度のディスカッションを予定する。なお、議論の前提には、ストレス概念、2次被害、トラウマ、メンタルヘルス等についての基本的な知識の整理も必要と考え、そうした基礎的な話も織り込んでいただく予定である。

・被害者への取材をする場合の具体的な注意点

・事件や事故、死別や自己体験などの場合分けでの対応の差異

・取材が可能かどうかの基本的な見極め方

・具体的に事件・事故取材をする記者が最低限身につけるべき専門知

キーワード:犯罪被害者 取材・報道の自由 ストレス・PTSD

開催記録

記録執筆者:山田健太(専修大学)
参加者: 92名(Zoom利用)

報告:
犯罪被害者の報道のあり方を議論する際、従来は、実名か匿名かといった当事者の氏名の報道の仕方、取材過程におけるメディアスクラムといわれる遺族等への過熱集中取材の問題性や、警察発表のあり方の問題に焦点が当たりがちであった。とりわけ2000年代に入り犯罪被害者等対策基本法等の法整備や、厳しいメディア批判の流れの中で、近年でいえば京都アニメーション事件の犠牲者実名報道が、社会の厳しい批判に晒されたことは記憶に新しい。本研究会は、そうした現実を踏まえつつ、そもそも犯罪被害者やその家族といった事件当事者は、どのような精神的心理的ストレスの中にあって、それを取材・報道することがいかなる2次被害を生むのか、あるいは新たな被害を生まないための取材や報道とはどのようなものかを考えるという、新しい視点での犯罪被害者取材・報道の問題解決のためのセッションであった。会の流れは、精神科医で犯罪被害者に生じうる被害の予防・対策のためのさまざまな活動をされている中島氏をお招きし、さらに討論者としてトラウマ研究をされ著書も出されて間もない大治氏とともに、議論を重ね、これから先の研究の端緒を探した。

冒頭の中島氏の「犯罪被害者のメンタルヘルスと報道」は、ジャーナリストが必要最小限しておくべきこと、そして今後の取材・報道のかたちを考えるうえで極めて示唆に富むものであった。その後の質疑応答の回答内容も加え、概要を以下に記す。

まず私たちが犯罪被害者やその施策について知っていそうで知らない実態を突いた。たとえば、犯罪被害者週間についてなどである。そのうえで、日本における犯罪被害者支援の歴史について、1990年以前、そして大きく支援の制度化が進んだ90年代、2000年代、10年代と時代区分ごとに話があった。さらに、犯罪被害によるトラウマの特徴の説明がなされ、犯罪被害の心理的影響と2次ストレスについて話があった。まさに、メディアへの対応は、そのうちの1つであることはいうまでもない。

そして実際の犯罪被害者のメンタルヘルスが、犯罪の種別によって、精神的・心理的にどのように異なるか、さらに被害者の心理的反応と時間的経緯として、被害直後衝撃期、急性期、慢性期に分け、それぞれの時期に応じた特性があるとした。特に、数時間から48時間くらいまでの被害直後衝撃期に当事者が取材に対面することを挙げ、その時期のさまざまな心理的な反応についての説明は、会の参加者のなかでも記者にとって響く話であったようだ。

その後、トラウマ周辺期の解離症状に話は進み、こうした症状の存在がPTSD(心的外傷後ストレス障害)発症のリスクの1つであるとの解説があった。また、犯罪被害急性期や被害直後の被害者の状況に、実例を紹介しながらの話があり、犯罪被害者のPTSDに話は進んだ。その際、誰が2次被害を与える可能性があるかについては厚労省の調査を引きつつ、報道関係者が相対的に高い実態を示した。具体的には、被害者の了解を得ない取材や報道、又は事実と異なる報道がそれらを引き起こしているという。

報道被害についても事例を紹介しつつ課題が述べられ、最後に「支援者が被害者を理解しようとする姿勢で被害者は救われる・・・安心して話し語れる場が欲しいのであって、被害者が生きていくためには信頼する心を取り戻さなければならない」との当事者の声を紹介した。さらにこれらの話をもとに、大治氏及び参加者からの質問と意見をもとに、意見交換がなされた。

以上