第37期1回研究会「ローカリティをめぐるメディア文化」(放送研究部会企画)

ローカリティをめぐるメディア文化

日 時:2019年11月30日(土) 15:00~

場 所:早稲田大学戸山キャンパス 33号館6階第11会議室

主 催:新潟大学・地域映像アーカイブ研究センター

共 催:日本マス・コミュニケーション学会 放送研究部会

共 催:早稲田大学大学院文学研究科 表象・メディア論コース

報告者:太田美奈子(新潟大学)、丸山友美(法政大学)

討論者:水島久光(東海大学)、河西英通(広島大学)

司 会:原田健一(新潟大学)

趣 旨:

本研究会は、地域性というミクロな視点からメディア文化の様相を捉え直すことを目的にもつ。

日本におけるメディア研究は、これまで「中央」においてその文化形式が決定され、やがて「地方」に浸透していくという中央集権的な歴史観に基づいて行われてきた。けれども、近年の研究が明らかにしているように、メディアの移動は中央から地方へ、あるいは都市から農漁村へという一方向性の広がりのみを備えていたわけではない。それぞれの地域において、土着の文化・経済・政治といった歴史的背景に支えられて独自のメディア文化は形成されてきた。

本研究会では、こうした研究動向を鑑み、ローカリティに着眼点を置いた議論を展開するため、青森と大阪でフィールドワークを進める2名の若手研究者の発表を基点に、ミクロな視点からメディア文化を記述するための方法を検討する。このような議論を通じて、これまで東京中心に論じられてきたメディア史を相対化することを目指す。そして、地域それぞれのメディア文化を記述する方途を構築するための問題や課題を共有する。

会の記録

記録執筆者:丸山友美(法政大学)

参加者数 :22人

報   告:

日本におけるメディア研究は、これまで「中央」においてその文化形式が決定され、やがて「地方」に浸透していくという中央集権的な歴史観に基づいて行われてきた。けれども、近年の研究が明らかにしているように、メディアの移動は中央から地方へ、あるいは都市から農漁村へという一方向性の広がりのみを備えていたわけではない。それぞれの地域において、土着の文化・経済・政治といった歴史的背景に支えられて独自のメディア文化は形成されてきた。本研究会では、こうした研究動向を鑑み、ローカリティに着眼点を置いた議論を展開するため、青森と大阪でフィールドワークを進める2名の若手研究者の発表を基点に、ミクロな視点からメディア文化を記述するための方法を検討した。

第一報告者の太田美奈子会員は、青森県田子町における初期テレビ受容の様相を報告した。青森県三戸郡田子町はテレビ草創期、県内で特にテレビ電波に恵まれなかった地域である。その理由は県境という地理的条件にある。田子町の人々はテレビ電波受信を何度か試みたが失敗に終わったことから「田子町テレビ共同聴取会」を設立、NHKからの助成金を得て有線によりようやく中心部における視聴環境を整えた。こうした不遇の時代を経験した田子町だったが、30 年後の 1994 年には「田子町ケーブルテレビ」が開局し、県下一のチャンネル数と独自チャンネルを有する自治体になる。こうした田子町の多チャンネル化は、かつて電波を阻害する要因となった「県境」という地理的な条件によって実現したものだった。以上の議論から太田会員は、放送制度が思い描く県域という電波範囲と実際の電波範囲の不一致によって、放送受容範囲というローカリティが生まれうることを提示した。

第二報告者の丸山友美会員は、テレビドキュメンタリー・シリーズ『日本の素顔』(NHK、1957-64)の制作を担った大阪中央放送局(以下 BK)に注目し、テレビ・ドキュメンタリーというものが BK 制作者によってどのように経験・形成されてきたのかを報告した。はじめに組織的・制度的文脈から BK の立ち位置やその制作文化を把握した。次にテレビ以前の文化形式を BK 制作者はどう受け継いだのか、先行する技術と文化の交錯点としてテレビの位置付けを確認した。そしてテレビ・ドキュメンタリーというアイディアを BK 制作者がいかに理解・共有したのか表現自体の詳細な検討から明らかにした。

以上の報告を受け、討論者らからのフィードバックが行われた。

第一討論者の河西英通氏(非会員)は、東北地方における近代史を専門に研究されている。太田会員の報告した田子町の初期テレビ受容が極めて近代的な所産であることを指摘したうえで、地方に着目するメディア研究の重要性や初期テレビ受容研究の必要性について論じた。第二討論者の水島久光会員は、ローカリティとナショナリティという概念は常に対になって論じられていることを指摘したうえで、だとすれば相対的な概念としてではない「ローカリティ」はいかにして議論が可能になるのかという問いを投げかけた。その一つの試みとして、例えば生活圏(エコロジカル)を丹念に描いた取り組みを見ていくというアプローチもあるだろうという提案が報告者に対しなされた。

以上の報告・討論を受けて、フロアの参加者にも参加いただく全体討論を行った。そこでは、「土着の文化・経済・政治といった歴史的背景に支えられ発展してきたというメディア文化の“ミクロ”な記述とは、どうすれば可能になるのか」、「証言を用いる歴史研究の信頼性はどう担保するのか」といった示唆に富む質問を多数いただいた。こうしたフロアからの質問や討論者からのフィードバックに応えていくことが、報告者らの今後の研究を充実したものにするはずである。報告者の一人として記して感謝する。ありがとうございました。

最後に、本研究会は、新潟大学・地域映像アーカイブ研究センターが主催する研究会を、早稲田大学大学院表象・メディア論コースとともに共催した。