11月29日(土)に、日本メディア学会2025年秋季大会がオンラインにて開催されました。240名を超える多くの方々にご参加いただき、多様な研究発表と活発な議論が交わされた一日となりました。
本大会では、二名の会員の方に大会レポーターとしてご協力いただき、個人研究発表・ワークショップ、国際シンポジウムなど、それぞれが参加したセッションの様子を記録していただきました。その記録を、以下のようにまとめてお伝えします。大会レポーターを務めてくださった、立命館大学大学院の小酒奈穂子さんと東京大学大学院の松香怜央さんに改めてお礼申し上げます。
※以下、氏名の敬称は、事務局により「さん」に統一させていただきました。
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午前の部は、ワークショップ3「日本新聞博物館の所蔵資料の概要とメディア史研究における可能性」に参加しました。
日本新聞博物館は、日本新聞協会が運営している博物館法上の登録博物館であり、2000年に開館し、所蔵資料は約20万点あるそうです。また常設展示・企画展も開かれているのですが、興味をひいたのは、2022年の「明治の新聞と妖怪・幽霊」の企画展でした。当時の社会の混乱と怪異、近代化・大衆化する社会と怪異で構成され、展示された明治の新聞からそれを読み取ることができ、怪談を楽しむ落語といった企画もありました。
貴重な所蔵資料に加え、大学からの寄贈された未整理の資料が5万点ほどあり、この資料についての質問や意見も寄せられました。今後日本新聞博物館の活用が、メディア研究に大きな進展をもたらすことが期待できる会でした。
昼休みには、ワークショップ8「メンター制度導入に向けた意見交換会」に参加しました。
企画はダイバーシティ推進ワーキンググループです。40期の理事会によって、ダイバーシティワーキンググループが設置される運びとなり、39期に策定された「日本メディア学会ダイバーシティ宣言」の公開を受けてのものとなります。
印象に残ったのは、地方の若手研究者の「取り残され感」や「心理的安全性」といったキーワードでした。こういった若手研究者の困難を改善するために、意見交流の場がとても貴重であることを実感しました。私が数年前に、日本メディア学会に初めて参加した時の親切な案内や、修士論文報告会で今後の研究への温かみのある示唆を受けたことを思い出しました。それは、このダイバーシティ宣言が、日本メディア学会のコンセプトになっているからと思いました。このワークキンググループが日本メディア学会のダイバーシティ宣言の実践の場になっていくことを願います。(小酒奈穂子)

午前の部では、個人・共同研究発表1に参加しました。それぞれ、①安全保障に関する新聞の論調、②記事メトリクスの可視化、③記者クラブに関する当事者の議論、④ニュース・メディアの透明性と、テーマを大きく異にしながらも、いずれも現代のマスメディアにとりアクチュアルな課題に取り組んでいる点が印象的でした。新聞記者の信念・理念と、そのメディア環境とのかかわりが通奏低音をなしていたことを踏まえた質問が、最後に司会の塩谷昌之さんから各報告者へ投げかけられ、本セッションは締め括られました。

昼休みには、ワークショップ8「メンター制度導入に向けた意見交換会」に参加しました。まず司会の田中東子さんから趣旨説明があり、その後、山本恭輔さんから各国・各分野のさまざまな学会で導入されているメンター制度の諸事例が示されました。学会の「メンター制度」について私は寡聞にして知らなかったところ、これほど多くの事例があるのかと驚かされました。その後、多くの参加者からご自身の実体験を踏まえた発言があり、私も一人の大学院生として意見を述べさせていただきました。昼休み中ながら常時30名前後の参加者がおり、非常に活発な意見交換が行われていました。
午後の部では、個人・共同研究発表4に参加しました。ここでは、権威主義体制下の国営放送におけるニュースの言説分析やニュースキャスターの仕事における意識の研究など、映像メディアに関する発表が続きました。特に印象に残ったのは、細貝亮さんの「2025年参院選におけるYouTube動画の計量分析―動画特性・タイトル表現・生成AI感情分析を中心に―」です。YouTubeにおける政治関連動画の特性を把握しようと努められており、すでに無視できないほどの影響力を誇る動画プラットフォームを視野に入れて研究を進めるための第一歩として、非常に示唆に富んでいました。(松香怜央)


最後は、国際委員会による国際シンポジウムに参加しました。
韓国のメディア環境が有権者の政治志向の著しい分断の背景となっている現状は、日本の状況――主要選挙にSNSと動画が重要な役割を果たし、偽情報・誤情報や誹謗中傷が深刻な問題となっている――よりも、一歩先をゆく形で課題を提供しているという主旨のシンポジウムでした。
韓国・東国大学の李洪千さんからは、昨年の尹前大統領の非常戒厳・罷免・その後の大統領選挙の意味するものと、日本への示唆として、日韓に共通するリスク構造について報告されました。高齢者のデジタル依存増加、ポータルサイト・YouTubeによる情報摂取増大、メディア不信の拡大、政治的エコーチェンバーの形成が進行しているという内容でした。それが東アジア型民主主義に共通する課題という指摘でもありました。
日韓社会の取材を続けている毎日新聞記者の堀山明子さんからは、裁判所攻撃や既存のメディアが選挙のアジェンダ設定ができなくなっている現状について、また韓国メディア環境の生態系は日本と一体となっていて、保革対立の価値観が韓国を見る目と関連していことについて報告されました。
澤康臣さんからは、兵庫知事選とメディアへの信頼度への関連から、来るべき「情報断層」にどう対応すべきかについての提案がされました。
三名の議論はとても奥深いものでした。研究者として、今後の日本のメディア環境と政治・社会の動向と、最後に司会の趙相宇さんが発言されたように、東アジアの民主主義という視座でとらえ、考えていくことの重要性を学ぶことができました。(小酒奈穂子)
レポート:小酒奈穂子(立命館大学大学院)
松香怜央(東京大学大学院)
編集・構成:第40期事務局幹事 安ウンビョル(東京大学)