2022年春季大会で開催されましたワークショップの開催記録を掲載いたします(2023年1月8日)。
ワークショップ1
アジアの政治運動とサブカルチャー実践
- 司会者:伊藤昌亮(成蹊大学)
- 問題提起者:陳怡禎(日本大学)
- 問題提起者:石川ルジラット(青山学院大学)
- 討論者:松井隆志(武蔵大学)
近年、アジア地域では各地で政治運動が活発化しているが、その形態には特徴的な傾向が見られる。日本や韓国のサブカルチャーを起点とする表象が動員されるとともに、アイドルファン文化、二次創作文化、「推し」文化などに基づくサブカルチャー実践の様式が援用され、それらが運動の大きな推進力となっている。
近年の社会運動では、参加者の間の緊密な“collective action”よりも、ソーシャルメディアを介したより緩い結び付きによる“connective action”が注目されるようになっているが、加えてそこでは、参加者が自らの愛好を交換しながら情動を生成しようとする動き、いわば“affective action”が実践されていると言えるだろう。
そうした問題意識から、本ワークショップでは、台湾やタイなど、アジア各地で起きている政治運動に目を向けながら、サブカルチャー研究、とりわけファン文化研究の視点を取り入れることで、「政治運動とサブカルチャー実践」との接点にあるものとしての、ネット時代のアジアの社会運動のあり方を浮かび上がらせることを試みた。
まず第一問題提起者の陳会員は、“affective action”についての理論的な整理を試み、サブカルチャー実践における「愛好」としてのそれが、政治運動における「情動」としてのそれに転化していくメカニズムを分析したうえで、台湾のひまわり運動について報告した。そこでは「アイドルファン文化」と「腐女子二次創作文化」という二つの趣味文化が、複数のネットワークを通じて交換されることで、運動参加者の日常性と流動性が高められ、「発話する権力」がもたらされたという。
続いて第二問題提起者の石川会員は、タイの政治運動について報告し、その背景を踏まえつつ、サブカルチャーとの関わりについて多角的な視点から論じた。映画の表象やインターネットミームを通じて国際的な連携が生み出されたこと、アニメのキャラクターや主題歌を用いて“comfort zone”が作り出されたこと、さらに「愛好から生まれた運動」のネガティブ/ポジティブな面を表すものとして、「キャンセルカルチャー」「プロデュースカルチャー」という二つの動きが示された。
これらの議論を受け、討論者の松井は、「政治と文化」という問題設定そのものを問題化した。社会運動における両者の分割という前提は、理念型の設定にすぎず、実際には両者は常に併存してきたのだから、その融合の状況を段階論的に見て、そこから運動の新しさを論じるよりも、むしろそれを自明なものと見て、「その先」を論じることにこそ意義があるのではないか。サブカルチャーによる運動の変質、運動の中でのサブカルチャーの変質などの点を捉えることが重要だという。
その後、参加者を交えてより発展的な議論が交わされた。中国など、アジアの他の地域の事情に関わる具体的な問題から、文化そのものの政治性、政治行動と消費行動との関係など、「政治と文化」に関わる理論的な問題に至るまで、多くの論点が提示され、活発な議論が交わされた。
本ワークショップは、メディア研究と社会運動論との接合というアプローチに基づくものだったが、そこからは、問題提起者が示したように豊かな知見が得られる一方で、抜け落ちてしまう視角もある。今後は、討論者が示したように方法論的な検討を踏まえつつ、「その先」を見据えた議論を積み重ねていくことが必要となるだろう。そうした見通しが得られたワークショップだった。
- 参加者数:44名
- 執筆担当者:伊藤昌亮
ワークショップ2
ネット時代のコミュニティ情報の可能性〜「放送」から「通信」へ 地域情報発信を問う〜
- 司会:川又実(四国学院大学)
- 問題提起:牛山佳菜代(目白大学)
- 討論者;千種伸彰(株式会社プラウドコンサルティング代表)
- 討論者:齋藤聖一(NPO法人地域メディア研究所理事長)
- 報告執筆:川又実
本ワークショップは、主に映像としての地域情報発信に着目し、その現状について既存の放送メディアと、ネット通信メディアにおける「地域情報」コンテンツのあり方を今一度改めて考え、ネット時代の地域情報のありかたについて、何が求められ、何が課題なのかについて、地域メディア論を中心に、地域ジャーナリズム研究やマスコミ研究、またネットコミュニケーション研究など、さまざまな観点から議論する場とすることをねらいとした。
まず、問題提起者の牛山佳菜代会員からは、コロナショック後の地域の位置づけの変化について説明した上で、「地域内」と「地域外」の情報発信手法について整理。「地域内」情報として、地域住民に向けた地域情報発信や情報共有、そして地域コミュニケーションの促進を目的とするが、地域内での住民との連携に関し「一部住民の参加にとどまらないためには、継続性を担保する仕組みをどう構築していくべきか、そもそも何のための連携なのか?」といった課題を指摘。また「地域外」に向けた情報発信については、広告宣伝やPR、SNS活用、ご当地PR動画などの手法は多種多様ではあるが、何を目指しているのか、またカーゲットは誰かなどは不明確であるといった課題に言及。そこで牛山は、利用者数の増加や、地域外認知度の向上など、地域活性化を目指す商店街の情報発信に着目。地域外に向けた情報発信の重要性の高まり(地域メディから地域 × メディアへ)、互いに楽しみ、継続しやすい仕組みの構築(地域メディアと住民との連携スタイルの多様化)、番組内容の充実や、経営面の安定化、大規模災害に備えた連携の強化など(地域密着型メディアにおける広域連携)をあげ、「地域におけるメディアの存在意義」「地域のメディアを継続させるキーパーソンの存在」「メディアミックスの可能性」「地域情報を映像で伝えることの意味」などを問題提起した。
続いて討論者として齋藤聖一会員からは、永年ケーブルテレビ業界に携わってきた経緯から、地域メディアとしてケーブルテレビ市場の現状や課題、またSNSと地域メディアについて報告。なかでも、地域コンテンツ制作をワインの銘柄に例え、土壌、シャトー、醸造方法、関わる人の思いなど、仕事も地域も愛せるようになるまでに、定量的な時間がかかることを指摘した上で、コミュニティチャンネルの目的について、「コミュニティ放送(FMラジオ)音声の映像化」「NHK、民放各局では取り上げられない領域に踏み込む」「自主放送、特定のサービスエリア情報に特化してコンテンツを創る」「有料加入者、ケーブルテレビ接続者の特別な地域チャンネル」「地域の公共圏があり、古くからの住民と新しい住民を融和させる」「メディアをもたない地域住民の広報の役割を果たす」「担い手は、ロケ、取材、原稿執筆、編集、放送まで一気通貫」「ライブ配信は多くはないが、編集力による強みを活かす」「地域の人・場・関係の小さな記録・アーカイブ」以上9点を指摘。また、InstagramやLINE、YouTubeなどのSNSは、写真や短い動画で不特定多数の認知獲得、興味づけ、関心づけに強みを持つのに対し、ケーブルテレビは、ユーザーは特定の地域に関心がある特定ユーザーに対して強みを持ち、地域という「枠組み」から、興味、関心を見ようとする場合、新しいコミュニティをゼロベースで作ろうとする必要はなく、「すでにあるコミュニティ」を有効に活用、相互利用する必要性を主張した。
討論者のハッピーロード大山TVプロデューサーの千種伸彰氏からは、テレビニュース報道記者などの経験から、現在、東京都板橋区のハッピーロード大山商店街が運営するTVのプロデューサーとして、YouTubeを中心にネットメディアを活用した商店街の情報発信を積極的に実践した事例報告であった。商店街の青年部を中心に、中小企業診断士や映像関係者を巻き込み、2011年のハッピーロード大山TVを手作りで運営を開始。現在では月1回のライブ配信をはじめ、月6本動画をアップロードやVtuberとのコラボ番組にも挑戦。商店街を軸に情報発信はしているが、海外ロケを行うなど番組作りはその限りではなく、ケーブルテレビや大学生のインターンシップ受け入れ、映画CMパロディ制作、いたばしプロレスリングとの連携など、様々なコラボ企画を展開している。動画制作の目的は、商店街なる出来事や思いだけではなく、様々な情報を流通さえ「にぎわい」を制作。イベント、個店、地域それぞれが、一生付き合えることが出来、文化の醸成、安全安心に貢献、商店街のマグネットとして、全世界へ地域情報を発信しする、「大人の学芸会・運動会」を目指し、バーチャル空間だけではなく、様々な人びとの触れあいを大切にしていることを指摘した。
そして両討論者に対し牛山からは、地域放送のあり方についてや、CATVの地域プラットフォームとしての可能性について、またフロアの参加者からは、地域コミチャンの課金化や地域の若い人材の活用方法、地域映像のアーカイブ化について、ミニコミ理論の再考の必要性など、研究者のみならず、マスコミ関係者や地域活動に参加している方々からも質問があった。
本ワークショップは、遠隔開催とはせず会場での開催のみとした。これは、コロナ禍の現況でも、一同が集い、議論することを再認識したいという思いから出会った。確かに、遠隔でも開催すれば、参加者も増加したことは予想できた。ただし、ネット時代の現在におけるコミュニティのあり方を考える上でも、またその地域情報発信の可能性を問う上でも、参加者との相互関係を保ちながら、対面のみでの開催とさせてもらった。その甲斐あってか、予想だにしない人数に集ってもらい、また、時間内には収まることが出来ない議論ができ、大変有意義なワークショップになったことに感謝の意を申しあげます。
以上
ワークショップ3
メディア研究と文学・文化研究
- 司会者:門林岳史 (関西大学)
- 問題提起者:梅田拓也 (同志社女子大学)
- 問題提起者:今関裕太 (江戸川大学)
「メディア研究」という領域は、コミュニケーションをめぐる社会科学にその起源を持つ一方で、マクルーハンやキットラーやウィリアムズなど文学や文化の研究の蓄積にも多くを負っている。現在の日本において文学や芸術の研究者が「メディア」の研究を掲げることは珍しくないが、本学会で研究発表・論文投稿を行う研究者の多くは社会科学系の研究組織に所属しているため、メディア研究と文学・文化研究は分化しているようにみえる。しかし、メディア研究の起源に立ち戻り、この2つの領域の協働の可能性を探ることで、新たな研究を構想できるのではないか。本ワークショップでは、学説史研究と文学研究の立場から、メディア研究と文学・文化研究の協働について問題提起が行われた。
初めに梅田拓也から、「メディアとしてのメディア:1980年代のドイツの文学研究とメディア論」と題する報告が行われた。20世紀末のドイツでは文学研究者たちを中心に独創的なメディア研究が発展し、近年のメディア研究において「ドイツメディア理論(German media theory)」と呼ばれ注目されている。報告では、これらの動向が発展した制度的・思想史的背景を分析し、この理論が伝統的な文学理論を解体し新たな文学理論を構想する過程で生まれたものであることが示された。梅田はこれらの議論を踏まえ、メディア史から文学・文化理論を批判する可能性や、文学・文化理論を経由することでメディア史を再記述する可能性を提示した。
次に今関裕太氏から、「文学のメディウムとフォーマット:アイリッシュ・モダニズムにおける音声の技術と技法を手がかりに」という報告が行われた。今関氏は、20世紀から現代に至るまでの英語圏の批評理論史を振り返り、20世紀後半まで文学のメディアの関係に対する問題意識が抑圧されてきたと指摘する。他方で今関氏は、今世紀に入ってから、文学とメディア(特にモダニズムと音響メディア)の関係に注目する研究が広がったが、それらの試みを綜合する理論的検討が進んでいないと指摘した。そこで今関氏は、ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の一節の分析を例に、個々のメディウムと個別の表現形式を媒介するものとしての「フォーマット」という概念を導入する可能性を提示した。
以上の報告に対し、司会の門林岳史氏と参加者から次のような意見が提示された。①まず門林氏から、報告では文学研究に注目が集まっていたが、文学以外の「文化」、特に映画や映像の研究の発展が、メディア研究の展開にとって重要だったのではないかという疑問が投げかけられた。②また、参加者から、現在はほとんど言及されないが、日本の「メディア研究」の歴史を振り返ると、ドイツや英語圏と類似する動向があったのではないかという疑問が投げかけられた。③別の参加者から、ときにニュースを指したり漫画を指したりと曖昧な意味で用いられる「メディア」という概念のゆらぎをどう捉えるかという論点が提示された。④さらに、「文学」と呼ばれてきたものが様々なメディアへと流れ混んでいったことが、メディア文化を考える上で広く重要なのではないかという意見も寄せられた。⑤最後に、ソーシャルメディアの広まりによって「批評」のあり方が変化した可能性について論じる必要性も提起された。
このように、メディア研究と文学・文化の研究の接続を巡って、非常に活発に議論を交わすことができた。本ワークショップがきっかけとなり、本学会においてこれら2つの領域を架橋するような研究発表・論文投稿が活発になることを望む。
- 参加者:対面25名+オンライン31名
- 執筆担当者氏名:梅田拓也
ワークショップ5
博論を本にする──メディア史の場合
- 司会者:水野剛也(明治大学)
- 問題提起者:大尾侑子(東京経済大学)
- 問題提起者:水出幸輝(同志社大学)
- (企画:メディア史研究部会)
【キーワード】博士論文、学位論文、書籍化、学術出版、研究成果公開
内容を記す前に、対面のみの開催にもかかわらず、教室がいっぱいになる盛況となった事実は、この種のワークショップに対するとくに若手会員の需要が確実に存在することを裏づける。今後も類似した試みがつづくことを期待してやまない。
本ワークショップの目的は、博士論文の単行本化が当然視されつつある現状をふまえ、比較的最近、メディア史の分野で単著を刊行した若手研究者を招き、博論を出版するまでの経緯、直面した課題・困難、身につけた新たな知識・技法・能力、学んだ教訓などを、自身の経験にもとづきできるだけ詳しく紹介してもらい、あとにつづく世代をはじめ広く学会員のために有用な情報を提供することであった。
問題提起者は大尾侑子・水出幸輝会員で、両氏はそれぞれ以下の書籍を刊行している。
・大尾侑子『地下出版のメディア史 エロ・グロ、珍書屋、教養主義』(慶應義塾大学出版会、2022年)。
・水出幸輝『〈災後〉の記憶史 メディアにみる関東大震災・伊勢湾台風』(人文書院、2019年)。
水出会員は、博論の執筆段階から書籍化を意識していたため、学位論文を提出した直後から刊行にむけた情報収集や各種準備にとりかかることができた点を強調した。たとえば、ほとんどの場合で必須条件となる出版助成を得るには、筆者自身が用意する申請書に加え、出版社に見積書(相見積もりの場合は複数)などを作成してもらわなければならない。そのためには、原稿が完成しているだけでは不十分で、かなりの時間的余裕をもって刊行を引き受けてくれる出版社を見つける必要がある。また、最初の交渉が不首尾に終わった苦い経験などを交え、一般的な出版スケジュールを念頭において、学会でのコミュニケーションを活用することの大切さを指摘した。その他、加筆修正では「読みやすさ」を意識すること、理想とする本をモデルにすること、書籍として刊行されることの影響力の大きさと充実感、などについても実感を込めて体験談を語った。
大尾会員は、編集者との協力関係や計画的な執筆の重要性などについて、ユーモアを交えて発表した。より具体的には、担当編集者との出会いのきっかけは学会での研究発表だったこと、researchmapなどで自身の業績や連絡先を公開しておくと連絡を受けやすくなること、刊行までの作業が長期かつ多岐にわたる書籍出版では編集者との相性がきわめて重要であること、「売れない」内容であることがかえって助成金獲得に有利になりえること、反省点として原稿の推敲に十分な時間をかけられなかったこと、などについて編集者へのインタビューもふまえて解説した。
また、より現実的な問題として、非常勤講師としての仕事や就職活動・就職後の各種職務と両立しなければならないこと、大学院生時代から効率的な資料管理を意識すべきこと、心身両面の健康管理は必須であること、などについても言及した。なお、会場には同著の担当編集者が参加し、本作りに関わる予算や著者への要望など現場の声を話してくださった。
以上の発表を受け、後半では活発、かつ和気あいあいとした質疑応答がなされた。主要なものとして、次のような質問や意見が投げかけられた。「売れない」ことが助成金獲得につながるとしても、引き受けてくれる出版社にとってはある程度「売れる」必要があり、ジレンマを感じる。より広い読者層にむけてどれくらい「分かりやすく」書き直すべきか、悩みどころだ。学術研究にとって不可欠な序章部分(研究の手続きや先行研究レヴューなど)の削除などを求められた場合、弱い立場にある筆者はどう対処すべきか。書籍化にあたりどの程度書き直すかを含め、博論をインターネット公開すべきかどうか、判断が難しい。
博士論文の単行本化が当然視されつつあるとはいえ、近年の出版状況による制約から学術研究にとって不可欠な序章部分(研究の手続きや先行研究レヴューなど)の削除などを求められることは少なくない。この点についても、弱い立場にある筆者はどう対処すべきか、また学問の発展を考えた場合、可読性や市販性を優先するあまり序章部分の議論を簡略化してしまうことは危険ではないか、といった闊達な意見交換がおこなわれた。
参加者23名
ワークショップ6
第49回衆院選報道とテレビの信頼
- 司会者 平田明裕(NHK放送文化研究所)
- 問題提起者 渡邊久哲(上智大学)
- 討論者 小寺敦之(東洋英和女学院大学)
本ワークショップは、第49回衆議院議員総選挙(2021年10月31日投開票)のときにテレビ局各社が行った選挙関連報道に焦点をあて、それらの報道に対する視聴者の評価を調べたインターネット調査の結果報告を受けて、今後テレビの信頼性を高めていくために選挙報道はどうあるべきかを議論することを目的とした。
冒頭に渡邊会員から、選挙終了1か月後の12月上旬に有権者を対象に実施した全国インターネット調査の結果報告があった。それによると、今回の選挙においてテレビは「選挙の全体像を知るメディア」としてはあらゆる年代でもっとも評価が高かったが、一方で「投票先を決めるのに役立つメディア」としては中高年層においてはもっとも評価が高かったものの18~30代の若年層においてはSNSやホームページ等のネットメディアと拮抗していた。
調査結果はさらに、テレビの選挙情報を指針に投票した有権者よりもネットの情報を頼りに投票した有権者の方が政治有効性感覚が高いこと、テレビの選挙報道が役に立ったという回答は政治に対する関心度が弱い層において高かったこと、テレビの選挙報道の中立性に対する要望は依然として根強いこと、娯楽的要素の許容に関しては視聴者の意見が割れていることなども示していた。また今回の選挙でネット上の選挙関連情報を利用したという回答率は55%に達するがその多くが既存メディアのニュースサイトや選挙関連情報の利用であること、また女性層を中心にボートマッチの利用も10%弱であるが出てきていることなどがわかった。
以上の報告に対して、討論者の小寺会員からは、社会心理学的の観点からみるとテレビの信頼性評価についてもテレビ局の能力という側面と親しみという側面の2面性があるということ、さらにこれまではテレビの信頼というものが専門性、公平性、客観性と関連づけて考えられてきたが、今視聴者がテレビに求めているのはむしろ受け手との価値共有なのではないか、ということが指摘された。とすれば選挙報道においてテレビ局が力を入れてき情報の正確さや早さよりも、視聴者自身のこと(=生活者の立場)を理解してくれることがテレビの選挙報道にも期待されているのではないかということになる。
現在は日本社会においても所得その他の面での格差が拡大しており人々の生活感覚や価値観に乖離が発生しているため価値共有は簡単ではない状況にあるようにみえる。そんななかで、報道機関というものはそもそも有権者に対する教育機能・啓蒙機能も有することに着目し政治参加や投票促進を呼びかけるすべきではないかとの意見も出た。
会場からは調査内容を確認する質問の他、テレビ局で長年選挙報道に携わった経験を持つ会員も含めて多数の会員から、信頼性向上のためには議席予測方法の丁寧な説明が有効ではないか、そもそも有権者のとくに若年層に選挙に対する関心を持ってもらうことが重要なのではないか、そのためにネット上のボートマッチ的な手法をテレビに取り入れてみてはどうかなど、さまざまな観点から意見の交換がなされた。
- 参加者数 45名
- 執筆担当者氏名 渡邊久哲
ワークショップ7
21世紀の政治・メディア・デモクラシー:
ネグリ/ハートの『アセンブリ―新たな民主主義の編成』(岩波書店、2022 年)を中心に
- 問題提起者:水嶋一憲 (大阪産業大学)
- 討論者:倉橋耕平 (創価大学)、三牧聖子 (同志社大学)
- 参加者数:50人
- 執筆担当者:清水知子
本ワークショップは、2022年2月に刊行されたアントニオ・ネグリとマイケル・ハートによる『アセンブリ——新たな民主主義の編成』(岩波書店、2022 年、原著 2017 年)をもとに、デモクラシーをめぐる 21 世紀の政治とメディアの可能性と陥穽を議論するものである。
まず問題提起者の水嶋会員は訳者として携わったネグリとハートがこれまで20年以上にわたって取り組んできた〈帝国〉論の奇跡を踏まえつつ、『アセンブリ』以後に浮上した三つの大きな争点——グローバル混合政体内の「戦争」、「パンデミック」、「プラットフォーム」——の連関に焦点を合わせ、戦争からの脱走、コモンのケア、固定資本の再領有の可能性について問題提起した。
こうした問題提起を受けて、倉橋耕平会員からは右翼運動と『アセンブリ』をめぐり、1)『アセンブリ』の右翼ポピュリズム運動の独自性、2)アイデンティティと所有権、3)反動右翼と新自由主義について、4)「歴史」を私的所有の支配に挑戦するかたちで〈共〉(コモン)を形成することは可能なのかといった点について報告がなされた。とりわけ、富にアクセスするための平等で開かれた構造であると同時に、民主的な意志決定のメカニズムにすることは可能なのかという問いをめぐり、倉橋会員の著書『歴史修正主義とサブカルチャー』及びレオ・チンの『反日』を踏まえつつ、東アジアにおいて社会的生産、再生産の基盤となる〈共〉(コモン)としての歴史による脱植民地化の可能性について議論がなされた。
また国際政治学者の三牧聖子氏からは、『アセンブリ』の運動論の米国の社会運動への示唆について、そして『アセンブリ』の世界秩序論について、ロシアのウクライナ侵攻をいかに考えるのかという点から『アセンブリ』の指導者論、運動の方法論、戦争からの「脱出」は可能かという点をめぐって報告がなされた。
以上の報告を受けて、フロアからも多様な質問がなされ、活発な議論が行われた。本ワークショップではメディア研究という立場から、現在、混迷を極めるデモクラシーについて、今後の政治とメディアの可能性と陥穽を多角的に考える重要な契機となるワークショップとなった。
ワークショップ番号:8
沖縄のZ世代を知る〜名護市長選、新コザ騒動を入り口に〜
- 司会者:司会者:金平茂紀(TBS)
- 問題提起者:阿部岳(沖縄タイムス)
- 討論者:渡真利優人(沖縄Z世代メディア研究会代表、沖縄国際大学大学院)他4名
- 参加者数:36名
- 執筆担当者:七沢潔、澤康臣(ジャーナリズム研究教育部会)
ワークショップの概要:
2022年は沖縄の「復帰」50年であると同時に参院選、知事選、那覇市長選の選挙イヤーだった。動向が注目されたのが「Z世代」で、スマホを活用するとともに、世論調査で10-20代の「基地容認」姿勢がみられるとされる。1月末沖縄市の「警察官の暴行による高校生失明」と「若者たちの沖縄署襲撃」の2事件は「復帰」前の1970年にあった米軍への抗議行動と同じ街で起きたことから「新コザ騒動」とも呼ばれた。一方、全国から当事者の高校生や沖縄の若者へのバッシングが殺到、沖縄の人々全体を誹謗中傷する差別的な内容も多かった。問題を追ってきた沖縄タイムス阿部岳記者の問題提起と、当事者世代の沖縄国際大学の院生・学生が討論した。
問題提起者の阿部氏は、沖縄タイムスに高校生の知人らしき若者から電話がかかり、「(警官に暴行されたという事実を)警察が隠蔽している。新聞は真実を報道して欲しい」と求められたことを明かした。「彼らZ世代のメディアはSNSだが、旧メディアに寄せた信頼に専門職として応えたい」と感じたという。取材で事実を明らかにしながら、ネット上の「(高校生は)無免許、ノーヘルだった」などのデマをファクトチェックして紙面化、ヘイトスピーチを批判した。若い世代については、辺野古新基地建設をめぐる県民投票の呼びかけ、実現の先頭が若い世代であること、他方若者への取材での「いつまでも反対しなくてはならないんですか、若い世代が先を見てはいけないんですか」の発言も紹介した。(基地をめぐる)現状の責任を特に日本の大人がどう考えるかが大事で、沖縄の若者を論評する立場にはないだろうと締めくくった。
一方、渡真利氏は「行動した若者は少しやり過ぎだが、権力と争う姿勢を見せたのは歴史的に例がない」とする一方で、沖縄署に爆竹を投げる場面を切り取るメディアは事件をエンターテインメントとしており、「沖縄の若者は乱暴という印象になってしまう」と批判した。一部の成人式で起こる暴走行為を毎年のように報道するのには「うんざり」だという。このイメージの流布が辺野古の埋め立てに反対する人たちへのヘイトにも繋がっているのではないかと分析した。同大学の学部生である我如古ももこ氏は「新コザ騒動」の呼び方について、背景が知られていない過去の事件とむやみに結びつけることには抵抗を感じると述べた。
オンライン参加者からTOKYO MX「ニュース女子」が招いた「沖縄ヘイト」の影響に質問があり、金平会員は番組の制作当事者は裁判敗訴後も「プチ勝利」と主張しネットでは当該番組(動画)を配信し続け、何も反省していないようだと指摘。沖縄ヘイトのプレッシャーやパワーは増しているのが体感だと述べた。沖縄国際大学大学院生の玉那覇長輝氏は、新基地建設抗議行動のオジー、オバーたちと接し、SNS上の言説に乖離を感じるが、反対する人たちはお金をもらっていると信じ込む学生もいると指摘し「メディアは真実を伝えてほしい」と語った。
当事者性を持つ議論の中、メディアが権力を監視する取り組みの中にも型にはめた分かりやすい「呼び名」で語る姿勢があることが指摘された。沖縄Z世代を論じる中で「メディアのおじさん」を問う視座を得る議論となった。
ワークショップ9
メディアと情動:理論と事例研究の立場から
- 司会者:滝浪佑紀 (立教大学)
- 問題提起者:原島大輔 (早稲田大学)
- 問題提起者:川村覚文 (関東学院大学)
本ワークショップでは、今日のメディアを考えるにあたってキーワードのひとつになっている「情動(affect)」を理論および事例研究の立場から再考しようと試みた。
まず企画提案者兼司会者の滝浪佑紀より、メディア研究において情動論が持つ可能性に関して短い発表がなされた。とりわけ映画論では、1990年代あたりから視覚の直接的経験に注目する研究が多く発表されてきた。ここで言われる直接的経験が情動なのかというのが滝浪の問いである。情動論の主要な論者であるブライアン・マッスミを参照しながら、すくなくともマッスミの議論では、情動は直接的経験をこえた領域を含んでおり、「主体」と「客体」の関係を原初的な水準で創造するという点がもっとも重要である。このように指摘した上で、情動には「開かれ」の契機が含まれており、メディア研究における情動論の重要性は、情動によって創造される関係をこの「開かれ」という観点から検証することにあると滝浪は主張した。
つづいて問題提起者の原島大輔は、情動に関して理論的立場から再検証をおこなう発表をおこなった。原島はまず、「情動」と「感情」の区別を「身体的状態変化」と「それについての心的状態としての認識」という観点からおこない、情動に関する判断の様式として「アブダクション」について説明した。アブダクションは帰納の一種であり、そのため蓋然的なものにとどまる。原島は、いくつかの例を挙げながら情動とアブダクションの関係を説明し、確実性に至らない推論様式のために、情動は陰謀論に陥る可能性から免れえないという点、さらには近年の人工知能の問題点(情動の計算をおこなう推論には根拠がない)に注意を促した。その後、原島は言語論的展開と情動論的展開の対比から、情動とは言語に先立つものではないかという問いを提起し、情動を機械論的ではなく生命論的に問う方策として、わたしたちが住まう環世界に注目することを提唱した。
もうひとりの問題提起者である川村覚文は、インターネット上に見られる「ネトウヨ」とアニメにおける声優-キャラ・ライヴコンサートを例にとりながら、より事例研究にそくした発表をおこなった。川村はまず、フロイト-ラカンの精神分析から「享楽の盗み」という論点を引き出し、ソーシャルメディアに見られる「ネトウヨ」の言説を、「享楽の盗み」を犯しているとみなされる存在にたいする排外主義という観点から分析した。川村はさらに、アニメを例にとりながら、アニメ作品とは情動の触発と個体化が生起するプラットフォームではないかと問い、声優-キャラのライヴコンサートを「声を通じた集合的=横断個体的な主体化」という観点から検証した。川村は最後に、以上のように作用する情動装置に対して対抗する方法はいかにして可能かと問い、象徴界の再建およびカウンターを作り出すさらに強力な情動の生成というふたつの選択肢を提示した。
発表ののち、会場との質疑応答がおこなわれた。会場からは、喪失したものへの思いと情動の関係、情動が共有される共同体の単位、オーディエンス研究と情動論の違い、フェミニズムやクィア理論における情動論、「エモい」と情動の関係、情報と情動の社会性の違い、情動論に賭けられている可能性と情動論で知識人が果たすべき役割、情動のマネイジメントと労働の問題などについて質問が寄せられた。限られた時間のなかで十分な討議を尽くせたとは言えないが、今後展開されるべき「メディアと情動」に関する議論の端緒はつかめたと思う。
- 参加者数:52名
- 執筆担当者:滝浪佑紀
ワークショップ10
情報発信活動が築く、地域とマスメディアの共創関係
- 司会者 金山智子(情報科学芸術大学院大学)
- 問題提起者 大隅亮(NHK 札幌放送局)
- 討論者 影山裕樹(大正大学)
- 企画者 佐野和哉(株式会社トーチ)
最初に司会の金山氏が、ワークショップ全体の構成と趣旨、時間配分について簡単に説明を行った。まずは企画者の佐野から、今回のワークショップ企画趣旨の説明を行った。今回の題材である、NHK札幌放送局の「ローカルフレンズ」という番組企画の発案者として、どういう趣旨で番組の企画を行ったのか、それがどのように番組として成立し、どのような影響を与えたか、それがメディア学会においてどのような面から論じられるものか、議論のポイントをいくつか提示した。
次に問題提起者の大隅氏から、番組内容の説明と、番組立ち上げの経緯と取り組み開始から3年の経緯、番組が与えてきた影響についての説明が行われた。公募制で募った企画に参加する視聴者の方々を「ローカルフレンズ」と位置づけ、従来のマスメディアの形態と異なり取材者と被取材者ができる限り対等な位置関係であること、ローカルフレンズと密に話し合いながら番組を進めてきたこと、番組としてのコントロールを極力ローカルフレンズに委ねること、などの説明がなされた。
最後に討論者の影山氏が、ローカルメディアと地域、マスメディアと地域の連携の事例提示を行った。マスメディアと地域の共創関係というのはこれまでにも存在しなかったわけではなく、そもそもマスメディア自体が範囲の広いローカルメディアであるので、ローカルメディアと地域の関係からマスメディアが実践可能な部分は多数ある、と、昨今の参加型報道などの事例や、農文協が発行する月刊現代農業の事例などの事例の提示がなされた。
その後討論の時間が持たれた。まず「従来マスメディアで言われてきた関係と大きく異なるため、報道などにおいて『取材対象と距離が近くなりすぎる』ということによるデメリットが生じるのでは?」という意見があった。この点については大隅氏より、番組制作チームと報道チームで役割を分けて適切な距離感を維持していることが返答された。一方で地域の事件報道において、ローカルフレンズ関係者が現地にいたことで、報道チームとは別ルートでリアリティを持った状況を把握でき、番組制作に活かされたという話もあった。
次に「NHKから関係者にお金は出ているのか?」という指摘があった。あまり高い金額ではないがディレクターを1か月受け入れるローカルフレンズに謝礼をお支払いしているという返答が大隅氏から行われた。制作側が主導権を握るこれまでの制作とは異なる制作スキームであるため、お金の流れ自体も再検討する必要があり、その点においてはお互いに前例がないなかですり合わせながら進めている、という状況の共有も行われた。報酬も含めた適切なスキームのあり方については今後形式の発展とともに議論が必要になってくるだろう。
更に発展した意見として、「公共放送であるNHKが、今後、営利活動に近いものまで手を出すことになればいいことではない。そのような動きは民放に任せるべきでは?」という意見もあった。北海道においてはNHK以外にローカルを一定以上の密度でフォローできる放送局が存在しない現状を踏まえ、ある程度はNHKが独自で動く意味があるものも存在するが、地域によっては民放が取り組むべきものもあると思われる。しかし民放各局利益の面で厳しい状況に置かれている中で、新しい動きをとりにくいのも現状である。そこはうまくNHKがきっかけづくりの役割に回れるとよいのでは、という話が上がった。
参加者は研究者とメディア関係者が程よいバランスでいたように思われる。出た意見は概ね肯定的な意見が多かった。今後の研究やさらなる議論の発展にも期待が持てるワークショップとなった。
- 参加者数 35名(オンライン15名程度、現地20名程度)
- 執筆担当者 佐野和哉
ワークショップ11
コロナ禍とメディア―日韓の比較分析から見る現状と課題―
- 司会者:小林聡明(日本大学)
- 問題提起者:阪堂博之(立教大学)
- 討論者:酒井信(明治大学)
- 企画:国際委員会
本ワークショップは、コロナ禍で析出されたメディアやジャーナリズムの課題について、日韓比較という観点から考えることを目的として実施された。ワークショップでは、まず朴健植会員から全体議論の前提として、日韓の新型コロナウイルスに関する主な動きや新型コロナウイルス対応の差異が説明され、メディア関連の韓国での研究動向が紹介された。ここでは特に①防疫体制、危機対応モデル、入国規制などについての日韓の状況、②日本の感染症対策本部と韓国の中央災難安全対策本部・疾病管理庁の構成、政策決定プロセス、政府官僚と専門家との関係性の説明に力点がおかれた。
続いて阪堂博之会員から問題提起が行われた。阪堂会員は、3つの側面(メディア事情、コロナ禍報道と政治、相互の報道と認識)から、コロナ禍における日韓メディア比較を試み、次の点を指摘した。第一に、日韓ともに既存メディアが「災害報道」とみなし、専門記者を中心にして報道態勢を組んだ一方、日本ではテレビの「ワイドショー」が市民に影響を与えたこと。第二に、コロナ禍が、日韓がともに選挙を控え、政権の支持率が低下していた状況を直撃し、政府のコロナ対応への評価がそれぞれ政権批判とリンクしていたこと。第三に、当初、日韓双方とも相手国の対応に関心を向け、相互協力もみられたものの、外交関係の冷却化が継続し、人的往来も途絶えたことで、十分な進展が見られなかったことであった。
以上の問題提起を受け、酒井信会員から討論コメントが寄せられた。酒井会員は、重要な論点として、日本の新型コロナ報道がワイドショーを主体としたものであり、韓国のマス・メディア報道が科学報道に重きを置いたものであったことを挙げた。オンライン上の報道は両国とも、極端な内容が見られるという阪堂会員の指摘を踏まえ、拡散性の高いアーキテクチャ、メディア環境上の問題は、両国のメディア関係者や研究者が共同して考えるべき問題と指摘した。また、地域から日韓報道を捉える視座も提供された。酒井会員は日本と韓国の報道を考える場合、九州北部など地域によっては経済圏として韓国と密接な関係を有する場所があり、九州のブロック紙の西日本新聞など、全国紙とは異なる報道を行なっていることや釜山日報との記者交流など新しい試みを行っているメディアがあることを紹介した。さらにコロナ禍で生じた分断が、経済や観光、エンターテイメントなどの交流を通じて、多方面で解消されることへの期待も示された。
その後、全体の討論に移り、パネリスト間のみならず、フロアとの間でも活発な議論が交わされた。日韓のメディアが抱える課題から、日韓関係の現状と今後に関する内容まで議論の内容は多岐に及んだ。
本ワークショップは、国際委員会の企画として行われたが、当初は韓国言論学会と共同で実施することを想定していた。結果として韓国の研究者が参加できなかったことで、ワークショップでの議論の幅や奥行きに一定の「限界」が生じた。ワークショップでは、こうした「限界」を乗り越えるための必要な諸事項、すなわち日韓比較という視点と方法の重要性や、韓国との研究交流の意義、そして日韓を含めた国際的な研究交流の可能性などが確認された。
最後に、黄盛彬会員から国際委員会委員長として、①今回のワークショップのテーマは国際委員会内の研究会として引き続き取り組んでいくこと、②韓国言論学会とも連絡・協議を試みながら、さらなる展開に向けて努力していくことが述べられ、本ワークショップは締めくくられた。
- 参加者25名
- 執筆担当者 小林聡明