2020年秋季大会ワークショップ4報告

民放アーカイブの利活用に向けて―『NNNドキュメント』を事例に

日 時:2020年10月10日(土曜日) 10:00~12:10
場 所:ZOOMによるオンライン開催
問題提起者:丹羽美之(東京大学)
討論者:谷原和憲(日本テレビ放送網)
司 会:丸山友美(福山大学)

開催記録

記録執筆者:丸山友美(福山大学)
参加者数:36人(オンライン・zoom利用)

本ワークショップは、報道ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント』の共同研究プロジェクトリーダーである丹羽美之会員を問題提起者に、そして本プロジェクトメンバーで『NNNドキュメント』元チーフプロデューサーの谷原和憲氏を討論者にお招きし、民放の番組を利活用する意義や課題について議論した。具体的には、①未整備の番組群を研究する学術的な意義、②研究者と番組史料を共有・活用するメディア産業的な意義、③『NNNドキュメント』プロジェクトを通して発見された課題というように、3つの視角から議論した。

はじめに、丹羽会員が共同研究の主旨とそのねらいについて報告した。丹羽会員によれば、本プロジェクトにおいて最も留意したのは、過去の放送番組を活用可能にするシステム構築だったという。『NNNドキュメント』の場合、1970年の放送開始から現在に至るまで、日本テレビ系列の全国29局が制作に携わっていることから、約2500本の番組群に興味深い番組をいくつも見つけることができる。だが、本共同研究のねらいはそれだけにとどまらず、「ローカル局が地元の課題にどう向き合ってきたのか」という制作主体に注目する研究の可能性を検討したり、特定のテーマの描き方の変遷を抽出したり、また『NNNドキュメント』への参加を通じて制作者自身がいかにしてライフワークとなる主題や対象と出会ったのかなどを、検索可能な「縦横無尽に番組を見直せる」アーカイブを目指していた。

そのことを示すように、本共同研究の成果として2020年2月に刊行された丹羽美之編『NNNドキュメント・クロニクル 1970-2019』(東京大学出版会)には、「番組に対する作り手の思いや、制作の舞台裏が垣間見える」(丹羽 2020:9)制作当事者たちからのコラムが寄稿されており、放送記録を整理することで浮かび上がってきた『NNNドキュメント』の足跡が立体的に提示されている。また、そうした当事者の声とともに、通時的に番組を視聴した研究者たちが、『NNNドキュメント』の紡いできた50年という時間を「農村」や「沖縄」というように20の切り口から描き出している。

このようにして結実した『NNNドキュメント』プロジェクトの成果は、放送されるとすぐに忘却されてしまう番組を救済する試みだけにとどまらない。

討論者の谷原氏は、『NNNドキュメント』が40周年を迎える前年の2009年の時のことを振り返りながら、現場が抱えていた2つの課題を報告した。一つは、過去に放送した番組と関連させながらその年に放送する50本を決めようとした時、「誰が」「何を」「いつ」放送したのか現場の人間ではわからなくなりつつあった記憶の喪失についてである。そしてもう一つは、「一つのテーマに括れない」番組の方が圧倒的に多く、それをどのように見直してこれからの制作に生かせば良いのかわからない困難を抱えていたということである。

こうした課題に対し、谷原氏は、『日テレジャンボリー2009』で「NNNドキュメント大鑑賞会」を催して過去の番組を上映したり、横浜の放送ライブラリーにて「東日本大震災」をテーマに上映会を催したり、Huluを活用して「シリーズ戦後70年」を配信したりと工夫してきた。けれども、権利処理の問題など様々な壁があり、思うような成果にはなかなかつながらなかったという。そうした状況のなか、一つの突破口となったのが、『NNNドキュメント』の教育利用という道だった。これが『NNNドキュメント』共同研究プロジェクトの骨格となる理念を形作り、消えモノではない放送の形を制作者と研究者とが手を取り合って模索する道を切り拓いた。

以上の問題提起と討論を受けて、フロアの参加者にも参加いただく全体討論を行った。「このプロジェクトの知見やノウハウを全国のテレビ局や大学に共有していくことで、日本の放送アーカイブの整備は加速するのではないか」という意見にくわえ、「データベースの構築に、大学院生や若手研究者が参加することで、機能の充実や性能の向上を図れるのではないか」という提案が行われた。そのように肯定的な意見がある一方、「一度構築したアーカイブを、いかに後世に残していくのか」という管理・維持の方法についても議論が必要であることが指摘された。このような課題や意義は、今後さらに議論を深めていく必要があるだろう。本ワークショップの企画者および本プロジェクトの参加メンバーとして記して感謝する。ありがとうございました。

参考文献:
丹羽美之編(2020)『NNNドキュメント・クロニクル 1970-2019』東京大学出版会