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第33期第4回研究会「NPOと協働する地域紙の試み」(ジャーナリズム研究・教育部会企画)終わる

日   時:2012年4月20日(金) 18:30〜20:30
会   場:日本新聞協会大会議室
問題提起者:畑仲哲雄(東京大学)
司   会:小黒 純(同志社大学)
参 加 者:13名
記録執筆者:小黒 純

事業の再構築を迫られる新聞社にとって、NPOは良きパートナーになるのだろうか。問題提起者は、新潟県の上越地域でタブロイド判の日刊地域紙『上越タイムス』を発行する地域新聞社が、紙面の一部をNPOに提供し、編集権限をもNPOに委ねるという珍しいプロジェクトの概要を紹介し、そのプロジェクトがどのように成立し、なぜ長期間にわたって継続している背景を分析した。  事例の概要は、①新聞社が、毎週月曜日に発行する紙面(20面)のうち4面を、中間支援型NPOに提供し、②NPOが市民活動に関する話題やニュースを取材した紙面を独力で制作し、③両者の間に金銭的なやりとりがない――というものであった。両者はこのプロジェクトを「協働」と位置づけており、協働を開始して以降、新聞社は発行部数が増大し、NPOも地域のNPO法人数が急伸したとその成果を強調している。

問題提起者は、このプロジェクトが新聞社の経営再建策として始まったもので、①当初はNPOに紙面制作を任せることに社内では反発が大きかったこと、②NPO側も、私企業の営利活動に市民が利用されるのではないかという警戒感があった、③新聞社の経営者がNPOの理事長と同一人物であり、トップダウンで決断していたことを解説した。

プロジェクトが12年にわたって継続してきた要因について、問題提起者の見解は、新聞社とNPOのスタッフが、協働を通じて相互の信頼を築き、地域に利益をもたらそうという目標を共有できたことではないかと分析した。この地域は、長年にわたり若年層の流出や高齢化、環境保全などの課題を抱えており、そうした地域の事情が地域紙とNPOの問題意識を接近させたと考えられるという。

報告に対し、参加者から質問が相次いだ。そのなかに「NPOが誤報をした場合、その責任はだれが負うのか」というものがあった。これに対し問題提起者は、新聞社とNPOの間では、NPOの紙面に新聞社は介入しないという約束があり、NPO紙面に編集責任がNPOにあることが明記されていることから、「NPOが責任を負うことになっているが、過去に深刻な誤報は起こっていないようだ」と述べた。また「NPOはどのような記者教育をしているか」という問いに対しては、「NPOのスタッフにはジャーナリズム活動をしているという意識はなく、市民活動の一環と捉えており、記者の作法や倫理に縛られずに紙面作りをおこなっている」と述べ、「新聞社側もそうした市民活動のために紙面を提供することに意義を見出しているようだ」と分析した。

このほか、「地域新聞社の経営形態や、ニュース生産モデルに焦点を当ててはどうか」「ガバナンス論やパブリック・プライベート・パートナーシップ論の視点からみれば見え方が変わるのではないか」「ケアのジャーナリズムという観点から検討してはどうか」というさまざまな指摘がなされ、議論が白熱した。