研究会一覧に戻る

第32期第16回研究会「『ニコニコ動画』は政治ニュースをどう変えたか」(メディア倫理・法制研究部会企画)終わる

日 時:2011年5月21日(土) 14:00〜16:00
場 所:東京大学本郷キャンパス 福武ホール 福武ラーニングスタジオ
問題提起者:亀松太郎氏(株式会社ドワンゴ ニコニコ事業本部 ニコニコニュース編集長)
司 会:奥村信幸(立命館大学)
参加者:約70名
記録執筆者:奥村信幸

民主党政権に替わって約2年、政治のニュースは発信のされ方、プラットフォーム、コンテンツなどの面で大きく変化してきた。実質的にどこまで進行しているかはさておき、記者会見のオープン化により、インターネットのメディアやフリーランスのジャーナリストらが進出したことが大きな要因となっている。このワークショップは、そのような新興勢力の中でかなり多くのユーザーを抱えるニコニコ動画・ニコニコ生放送を運営するドワンゴで、ニュース部門の責任者のひとりである亀松氏を迎え、新しいコンテンツについて説明を受けるとともに、プラットフォームのユニークさが、従来からの伝統的な政治的意見の交換を超えて、どのような言論空間を生み出しているかを検証し、政治ジャーナリズムの将来を展望しようと試みるものであった。

亀松氏には自らが関わった事例を通し、いわゆる伝統的な政治ニュースと、どのような「差別化」を行ったか、それにユーザーがどのように反応したかなどについて詳細な報告をしていただいた。ニコニコ動画・生放送は鈴木宗男服役囚を収監前に出演させたりするなど「既存のメディアではとりあげないニュース」にもスポットを当て、時間の制限がない中で徹底的に掘り下げるような番組を目指していること、また同時に既存のメディアとのコラボレーションにも積極的に取り組み、例えば3月初旬に行われたNHK「クローズアップ現代」との番組では、NHK側のスタッフがニコ動側に出演し、本音トークを展開するなど支持を集めた例などが紹介された。

会場からは、「果たしてニコ動は報道機関なのか、単なるプラットフォームではないか」とか「編集方針はあるのか」などの指摘がなされ、亀松氏からは「急激に業務拡大する中で、『走りながら考えてきた。』しかし、そろそろこのようなコンセプトについて明確にしていく必要を感じている」との発言があり、発展途上のメディアが抱える課題も示された。

非常に重要な指摘もあった。ニコニコ生放送が小沢一郎氏の独占生出演を放送した際、新聞やテレビの「番記者」たちが別室のモニターを前に、画面を見ずひたすら音声のみをパソコンで記録し、メモを本社に送信している光景を亀松氏は目撃したという。亀松氏はこれと、映画化された小説「クライマーズハイ」で、なかなか連絡がつかない航空機事故の現場に派遣された記者に業を煮やして、テレビを見て現場雑観記事を書き始めた記者を主人公のデスクが怒鳴りつけるシーンを比較して、「記者は現場に来ることが大切だと言われるが、何をすることが求められているのか。少なくともひたすらメモを取るだけなら学生のアルバイトでもできる」と問いかけた。経営が斜陽化する反面マルチメディア社会の進行で24時間態勢で発信を求められているメディアにとって、作業の省力化とともに、ジャーナリズムの価値について再定義を促す、意義のある問題提起であった。