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第32期第13回研究会「デジタル化でテレビはどう変わるのか」(放送研究部会企画)終わる

日 時:2011年2月19日(土) 
場 所:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー 605教室
問題提起者:鈴木祐司(日本放送協会)
      尾関光司(ビデオリサーチ)
司会(討論者): 長井展光(毎日放送)
参加者:30名

放送のデジタル化が進む一方で、通信を含めたより大きな世の中全体のデジタル化で放送のあり様、役割はどうなっていくのか、という視点で研究会を開催した。

鈴木氏からは多メディア時代の中で、放送市場は大幅に減少し、「放送はゆっくり降りるエレベーター」状態にあり、視聴率減少・広告収入減少対策として放送事業者は放送外収入増を模索している。受け手である視聴者の状況から見ても、伝統的メディアの地位が危うく、世代によってパソコン、ケータイの活用法を熟知する層が増え、ライブ視聴、録画中心、ネット動画中心の層に分かれてきている。携帯電話もスマートフォンの登場でより様々なコンテンツに対応できるようになった。他方、ネットでラジオを聴くことが可能になった。これは放送がIP網に取り込まれた瞬間であり、技術的にはテレビも光とモバイル網で伝送可能だ。情報インフラが過多になり、インフレ状態を起こし、トータルなデザインなき消耗戦に突入している。これらを見据え、よりコンテンツの内容重視の戦略が必要ではないか、と問題提起がされた。

尾関氏からは、IT革命によってもたらされた「伝送路の多様化」はビジネス的に成功したかどうかは別にして、生活者サイドから見ると「いつでも、どこでも、自分のみたいものを」が可能になり、理論上、コンテンツライフは充実した。このことはしかし、放送局にすると視聴の分散以外のなにものでもない。集中を前提とした放送、分散を前提とした通信の枠組み再考の要があるのではないか。 一方で生活時間が限られる中、多チャンネル時代でも一人の生活者が常用するチャンネルは限られ、1世帯あたり 1週間に30分以上視聴するチャンネルは5つ位に収斂する。しかし、それは、ネット上のコンテンツが浸透・成長していくに連れて、極端な話、「地上波局とユーチューブとミクシ―」となったりして、メディアの垣根を越え、メジャーなものに集中する。また、情報を主体的に選ぶ能動的な層と暇つぶしに視るという受動的な層に分かれている。デジタル細分化でどれだけの人間がついてくるか、そもそもどんな気分で生活者はテレビに接しているのか、生活者にとってメディア、コンテンツは何なのか見極めなければならない、と問題提起がされた。

討論ではさらに、鈴木氏から、忙しい現代人を相手にして、より番組を見てもらうために5分のダイジェスト版をネットに出すなどして多様なニーズに応えていることが紹介された。尾関氏からは、多メディア時代で地上波も番組コンテンツの中身で勝負しなければならないのにバラエティ番組が増え、どの局も似たりよったりの内容なのは如何なものか、という問題点指摘もあった。また、そのようなメディア間の競争状態の中で、キー局の番組を流すことだけをしてきたローカル局はどうしたら良いのか、一部の局を除いては多面的展開の成功例がない、との指摘もなされた。一方、単に放送が衰退する、というのではなく、「日本そのもの」が衰退するのなら、その「放送部」だけが頑張っても限界がある。国外への展開も考えねばならないし、民放黎明期のようなメディアに対する期待、高揚感を作ることも重要ではないか、との指摘もされた。さらに、規制の厳しい日本の中で、それをどう逆手に取って、新しい展開をしていくべきか真剣に考えるべきでは、という考えも提起された。