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第32期第9回研究会「ジャーナリズム研究とジャーナリスト/ジャーナリズムの間(2) ―社会運動としての“ジャーナリズム・リテラシー”教育―」(ジャーナリズム研究部会企画)終わる

日 時:2010年6月19日(土) 16:00〜18:00
場 所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟346教室
問題提起者:小俣一平(東京都市大学)
司会者:烏谷昌幸(武蔵野大学)
参加者:22名
記録執筆:烏谷昌幸

ジャーナリズム研究部会では、目下のところ「ジャーナリズム研究とジャーナリスト/ジャーナリズムの間」という「古くて新しい」テーマに取り組んでいる。第2回目にあたる今回は、NHKの記者としてジャーナリズムの現場を経験し、かつ調査報道やジャーナリズム教育に関わる研究にも取り組んで来られた小俣一平会員に問題提起をして頂いた。

小俣会員の問題提起は、マスメディア産業の経営危機、マスコミ不信の高まりなど、現在の厳しい環境変化の中でジャーナリズムを活性化させていくためには、いま一度「調査報道」を再評価していくことが必要であるというものだった。議論は具体的には、「調査報道の定義、分類論」「戦後日本における調査報道の歴史」「発表報道、独自報道の比率を検証するための新聞内容分析」「現役ジャーナリストは調査報道の意義をどう考えているか」などの興味深い個々の論点に沿って展開した。軽妙な語り口と、豊富なエピソード、データを駆使して行われた小俣会員の問題提起に、参加者一同は時に笑いを誘われつつ聞き入った。

報告後、活発なディスカッションが行われたが、主な質疑応答の論点として以下の三つが取り出せるものと思われる。

第一に、最も質問が多かったのが「調査報道の定義、分類」についてである。とりわけ小俣会員が「特別調査報道」と名づけた分類(=権力、権威ある組織、団体、個人を取材対象として、その不正、腐敗、怠慢などを暴く報道)が成立する条件としてどのような内容が含まれるべきか、含まれるべきでないかについて議論が活発に行われた。

第二に、「調査報道を妨げる要因」についても質問があった。これについて小俣会員は、「取材現場の時間的ゆとりの無さ」、「指揮官であるデスクの意識、能力の欠如」、「偏差値は高いが取材現場の厳しさにすぐに弱音を吐いて退職してしまう若手記者が増えていること」、「記者クラブ中心の取材体制の問題点」など、およそ10 項目にわたる要因を自身の記者体験を交えながら大変興味深く説明した。

第三に、「調査報道と世論」の関わりについても議論が及び、オーディエンスが淡々と事実を伝えるだけの客観報道だけを望み、調査報道のような踏み込んだ試みを望まないケースをどう考えるのか、調査報道と世論の関わりを考える上でキャンペーン報道化するケースとそうでないケースを分けることが重要であるなどの興味深い指摘もみられた。

小俣会員のユーモラスな語り口が冴え、笑いの多さがひと際印象深い研究会であったが、以上に見るように、研究会で議論された論点はいずれも重要であり、参加者一同、今後のジャーナリズム研究の展開を構想する上で極めて有益な時間を過ごすことができた。