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第32期第5回研究会「ジャーナリズム研究とジャーナリスト/ジャーナリズムの間①─新しいジャーナリズムの構築に向けて─」(ジャーナリズム研究部会)終わる

日 時:2010年3月5日(金) 15:00~17:00
場 所:早稲田大学 早稲田キャンパス 3号館第3会議室(2階)
問題提起者:矢田義一(朝日新聞社)
司 会:大石 裕(慶應義塾大学)
参加者:12名
記録執筆:大石 裕

ジャーナリズム研究部会では、「ジャーナリズム研究とジャーナリスト/ジャーナリズムの間」というテーマで、数回にわたって研究会を実施する予定だが、第1回目は矢田義一会員(朝日新聞社)から問題提起をしていただいた。

矢田会員からは、まず「新聞記者の仕事」の専門性が低くなる原因(仕事のサイクル、頻繁な異動など)と、新聞をめぐる経営環境の変化(特に広告収入減)に関する説明が行われた。また、ニュースや新聞記事に見られる問題点として、ワンフレーズ的な見出し主義、異なる意見や主張の両論併記、分かりやすさを過剰に追求することによる単純化、といった点が指摘された。

加えて、個々のジャーナリストに対する社会的制約や被雇用者としての制約、さらには普通の社会人としての制約が存在する以上、規範的なジャーナリズム論に対して「違和感」を感じるという見解が示された。こうした違和感が生じる要因の一つとして、ジャーナリズムのあり方やジャーナリズム研究に関する議論が、組織や業界の中でほとんど行われていないことがあげられた。ただし、ジャーナリズムの側のオン・ザ・ジョブ・トレーニングの見直し、また大学の側のジャーナリズム教育への積極的な取り組みによって、この流れは少しずつ変化してきたとの見方も示された。この後、矢田会員はジャーナリズムにとっての古くて新しい問題としての「リップマン・デューイ論争」、「ネット時代のオーディエンスの変化」にまで踏み込んで論じ、特にジャーナリズムと民主主義との関連に関する論議を一層深めることの必要性を強く主張した。

これらの問題提起を受けて、ニュースの「編集」過程に必然的に内在する「偏向」の問題、オールタナティブ・ジャーナリズムの可能性、規範的アプローチの有効性と、それとジャーナリズム理論・モデルとの関連性、ジャーナリズムが実施する世論調査の問題点、取材対象との距離感を自覚するためのジャーナリズム論やジャーナリズム教育の必要性など、興味深い質問や討論が行われた。「ジャーナリズム研究とジャーナリスト/ジャーナリズムの間」を考えるうえで、いくつかのヒントが得られた有益な研究会であった。