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第32期第4回研究会「新しい時代の放送・通信と政府」(メディア倫理・法制研究部会)終わる

日 時:2010年2月18日(木) 18:00~20:30
場 所:国際大学グローバル・コミュニケーションセンター(GLOCOM)
<第一部>「新しいメディア・情報通信政策のイメージ」
講演:内藤正光(総務副大臣)
質疑:岩崎貞明(メディア総合研究所)
    渡辺智暁(GLOCOM主任研究員)
<第二部>「自由な言論・豊かなコンテンツのために考えるべきこと」(パネルディスカッション)
岩崎貞明、渡辺智暁
野中章弘(立教大学)
津田大介(ジャーナリスト)
司 会:奥村信幸(立命館大学)
参加者:57名
記録執筆:奥村信幸

本研究会を開催した問題意識は、民主党政権が示した、放送と通信を管轄する新しい組織、いわゆる「日本版FCC」構想の内容を詳しく聞き、表現の自由やジャーナリズムを守りつつ、同時に産業振興を進めるための課題を明らかにしようとするものであった。幸運にも内藤総務副大臣の登壇が実現したが、会期中でもあり約1時間だけとの制限がついたため、代表質問者を設け、放送分野に関してはマスコミ学会から岩崎会員に、一方、通信やインターネットなどに関してはGLOCOMの渡辺氏を中心に質疑を行い、内藤氏の退席後に他パネラーも交えて問題点を掘り下げるディスカッションという形式で企画した。

内藤氏は冒頭から、いわゆる日本版FCCについて「きょうは具体的な話はできない。新しい組織が必要なのかも含めて総務省にフォーラムを作って検討している」と発言、選挙直後の政策構想から大幅に後退した感が否めない講演となったのは少々残念であった。しかし、メディアのクロスオーナーシップによってメディア間のチェック機能が働いていないという議論は、今後の法制度設計において、政権が現在のメディア業界が抱える構造的な問題にも斬り込む意欲もうかがわせるものでもあった。

また、通信政策については、鳩山政権で徹底的にICT政策を進めようとしているものの、政府内に「旗振り役」がおらず、総務省だけでなく、経産省、文科省なども連携し、電子書籍などの問題に対処していきたいなどの発言があった。

これに対し岩崎会員からは、クロスオーナーシップ規制や表現の自由を守ると言いながら政府は、結局自由な新聞と、政府の影響を受けるテレビの区別を固定化しようとしているのではという指摘がなされ、渡辺氏は、これらの対策と、斜陽化しているメディア産業の支援をどのように両立させるのかなど論点が示された。

引き続き、野中会員から「放送に対する免許権限とNHKの経営をどうするか」との見解が質され、津田氏からも、縦割り行政を是正するのなら、方法論を説明して欲しいなどの質問があったが、残念ながら内藤氏から明確な見解は表明されなかった。

第二部はさらに、報道の内容規制やクリエーター保護政策と著作権などの問題について、フロアも交えてディスカッションを行った。特に野中会員から提起された、アフガン支援の約50億ドルのうち、数パーセントでも文化振興に振り向けるべきだったという指摘や、津田氏のコンテンツ振興のため、制作者保護のための寄付税制などに手をつけるべきという指摘などは新しい視点を提供した。放送と通信関係者が一同に関して総合的に意見交換できたのはあまり先例もないことであり、双方にとって有意義であった。

このイベントでは、メイン会場の人数に制限があったため、U-ストリーム経由でインターネット中継を行った他、ツイッターを用いリアルタイムで質問やコメントを受け付け、会場内に表示するという試みを併せて行った。専門用語が飛び交い、議論もいささか拡散気味になってしまった感はあるが、鳩山政権のメディア政策という問題だけに関心も高く、ネット中継は最大で約300人、ツイッターのコメントは730件以上が寄せられ、活況であった。