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第32期第2回研究会「選挙コミュニケーションの法と倫理〜8月衆議院選挙で顕在化した諸問題〜」
(メディア倫理・法制研究部会)終わる

日 時:2009年12月12日(土) 14:30〜17:40
会 場:青山学院大学青山キャンパス総研ビル(14号館)6階 14608教室
パネリスト:桶田 敦(TBSテレビ)
      吉田文和(共同通信)
      大石泰彦(青山学院大学)
司 会:本橋春紀(放送倫理・番組向上機構)
参加者:26名

日本の公職選挙法は、いまだにインターネットを使用した選挙運動を禁じていることに象徴されるように、公営選挙を理由に数多くの制限を設けている。本研究会では、(1)そうした制限を受けながらどのような報道がなされているのか、また、(2)選挙にかかわるコミュニケーションにどのような法的規制が加えられているのかを検討した。

研究会では、まず、マスメディアで昨年の総選挙報道にかかわった吉田・共同通信総合選挙センター・センター長と桶田会員(TBSテレビ)の2人から現状報告が行われた。

最初に吉田氏は、「1996年の中選挙区から小選挙区比例代表並立制への制度変更が、政治を大きく変化させ、報道もそれに応じて変わらざるを得なかった。政治的には、小選挙区において組織票の積み上げだけでは当選することが難しくなり、組織されていない選挙民の動向を捉えるために世論調査が非常に重視されるようになった。このため自民・民主両党とも相当数の調査を実施して選挙運動に反映させている。一方、従来、政治的なスキャンダルが報道の中心だったマスメディアにおいて、政党間の競争を重視し、マニフェストを意識して報道をせざる得なくなった。今回は麻生首相の就任した2008年秋から総選挙を意識した報道を長期にわたって行っており、争点を掘り下げた報道がある程度できたのではないか」などと報告した。

桶田会員からは、「放送法・公職選挙法において公平な報道を義務づけられている放送局として、政党の取り扱いに苦慮した。TBSで8月13日に1時間の枠で実施した党首討論会についても、自民・民主2党に絞るという考え方もあったが、実際には公明、共産、社民、国民の4党を加えた6党の出席とした。マニフェストが従来の選挙公約とは違い、具体的な施策や数値目標だとした場合、政権をとる可能性のある2党とそれ以外の党のものの扱いを変えなくてもよいのかという点も議論不足だった。マニフェストという膨大なテキストはテレビとしては扱いにくい素材であり、夕方ニュースで23回のシリーズを組んだが、内容の分析にまでは至らなかった。苦肉の策として一部をホームページでの情報提供も試みた。また、投票日当日の開票特番開始時の午後8時に民主党321議席と予測したが、結果とは相当乖離しており、事実報道としても問題があった。また、数時間で結果がわかるものを巨額の費用をかけてやる必要があるのかという批判があることも理解している」などとの報告があった。

大石会員からは、選挙時に限らず市民(個人、特に少数者)が十分な表現の自由を行使できているのかという観点からの問題提起が行われた。ビラ配り、デモ、街頭パフォーマンスなどがさまざまな法令によって規制の対象となっており、最高裁もそれを追認していることを指摘した。また、本来、市民の表現がもっとも活発になされるべき選挙時に、公選法によってさまざまな規制が加えられており(戸別訪問、演説会・討論会主催、インターネットを利用した選挙運動の禁止など)、個人の立候補者は政党の候補と比べて公選法上許される選挙運動についても不利な扱いを受けているなどと批判した。一方、マスメディアの選挙報道については、主に2つの観点から批判した。1つめは、マスメディアの選挙報道には「社交仲間」の祭典ではないかという点である。司会者、タレント政治家、メディア出身候補、芸能人など、テレビの選挙関連番組の出演者が固定され“内輪感”が漂っているとした。2つめに、国政選挙に今回初めて本格的に取り組んだ宗教政党などに関連して政教分離上問題ないのか、また、この宗教政党からの広告をマスメディアが受け入れたことについて批判を加えた。

その後、「開票前の出口調査結果が候補者に流出している可能性があり、重大な問題ではないか」「制限の多い公営選挙をやめて、“民営化”すべきではないか」などの問題をめぐって活発な討論が行われた。日本において選挙をめぐるコミュニケーションは、制限が多く十分な自由を確保できておらず、多くの問題を抱えていることが浮き彫りになった研究会であった。

(記録執筆:本橋 春紀)