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■ 第31期第7回研究会(メディア倫理・法制研究部会企画)終わる


 テーマ  :自律するオーディエンスとオーディエンス研究       〜Autonomy of Audience and Audience Research〜
 日   時:日 時:2008年11月6日(木) 午後1時15分〜2時45分
 場   所:同志社大学今出川校地新町キャンパス
 問題提起者:デニス・マクウェール(アムステルダム大学名誉教授)
 討 論 者:山口 功二(同志社大学)
 司   会:渡辺 武達(同志社大学)
  参 加 者:250名

 デニス・マクウェール氏によれば、現在議論される一般的な「オーディエンス」像は活字印刷物の一般化以降に出てきたもので、原像の位置づけにはその前の時代のオーディエンス(historicalaudience)の検討が必要だとする。ギリシャ・ローマ時代の市民は政府や当局の開催する集会や闘技、演劇などに参加したり、自分たちで集まり議論していた。そうした目的を持った人びとの集まりは対面コミュニケーションのできる規模内であり、何らかの形で相互の意見交換が可能なオーディエンスであった。それがマスメディアの時代になると、市民はしだいにメディアから一方的に情報を送り届けられるものとされ、情報が市民にどのような影響を与えるかということが大きな関心となった、つまり現在の大半のオーディエンス研究は結果としてメディア業者(communicators)、PR会社や広告業界の欲する情報・データを整備し、オーディエンスはビジネス論理による操作対象になっているとする。

 しかしインターネットを代表とする電子メディアコミュニケーションの利用者は情報の享受者であると同時に積極的な発信者でもある。その意味ではメディアの受容者から、受容者・発信者の両方の役目を担う「オーディエンス」が登場したということで、そうした新時代のオーディエンスがどのような社会的アクターとしての立ち位置を持っているかを研究する必要が出てきたとし、そのプラスマイナス両面からの分析を行った。そうした立場からの研究はメディアと社会との関係を豊かにし、マスメディア時代のコミュニケーターの横暴を抑制し、市場自由主義という強者必勝の論理をオーディエンス主権型に是正していくことになると主張した。

 討論者の山口功二会員は40年前に自分が大学生であった頃のメディア利用と現在の若者たちのメディア接触を比較しながら、現在のメディア利用の多様的展開を認めつつ、それが独善的に陥りやすい点と積極的な展開による社会的閉塞性の打破への途を開く可能性を持っていることに言及した。

 フロアーからの発言もマクウェール氏のいうメディアアクセスを基本とするオーディエンス論がオーディエンスの復権に繋がる道筋を照らすもの、つまりメディア批判よりも能動的なオーディエンスを復権させる試みのほうが社会の活性化、正常化につながることを了解したようで、これからの世界、とりわけアジア諸国間の地域国際放送への多角的展望が拓けてくるような中身の濃い議論展開となった。

 なお、マクウェ−ル氏のオーディエンス論は近刊の「オーディエンス研究の理論と実際」in津金澤聰廣他編『メディアとジャーナリズム 21世紀の課題』(ミネルヴァ書房)で読める。

(記録執筆 渡辺 武達 )