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■ 第31期第6回研究会(メディア倫理・法制研究部会企画)終わる


 テーマ  :「メディアによる情報提供とアカウンタビリティ
         Freedom of Publication and Accountability」
 日   時:2008年10月31日(金) 18:30〜20:30
 場   所:日本新聞協会大会議室(日本プレスセンタービル7階)
 問題提起者:デニス・マクウェール(アムステルダム大学名誉教授)
 討 論 者:渡辺 武達(同志社大学)
 通訳補助 :羽生 浩一(東海大学)  司 会 者:赤木  孝次(日本新聞協会)
  参 加 者:10名

  コミュニケーション、メディア研究の大家であるデニス・マクウェール氏を招き、メディア倫理・法制研究部会の研究会が開催された。氏はpublicationを、活字・放送・日常会話を問わず、情報の外部への提供行為全般を表す概念(公表行為)ととらえる。それゆえ、インターネットやブログの広がりは論理必然的に、freedom of publicationの在り方の変容をもたらす。そうした環境のなか、新聞社、放送局などのメディアが果たすべきアカウンタビリティをどう考えるべきなのかが、研究会のテーマとなった。

 マクウェール氏は、メディアのガバナンスの在り方として、公式/非公式、外的/内的という2つの要素の組み合わせからなる4つの形態__「法律と規制(公式+外的)」「管理と自主規制(公式+内的)」「市場圧力と世論(非公式+外的)」「プロフェッショナリズムと個々人の倫理(非公式+内的)」__を挙げる。その上で、アカウンタビリティを「メディアが自らの公表行為の質や結果に対する問いに答えるあらゆるプロセス」と定義する。その意味は外的な強制力への対応にとどまらない。アカウンタビリティには、倫理に基づく自発的な「応答性answerability」と、強制的な性格を持つ「法的責任liability」の2つがあり、メディアは質(quality)に対するanswerabilityもしくは害悪(harm)に対するliabilityのいずれかによって、アカウンタビリティを果たさなければならないと説く。そのための方法として、苦情処理や法的な対応などとともに、十分な情報提供と説明の必要性にも言及した。

 そして、アカウンタビリティをめぐるこんにちの潜在的な危機として、メディアの拡大と変化、規模の集中、商業化の進展、規制緩和、グローバル化、規制なきインターネットの拡大を挙げ、加えて、そうした状況変化が進む中での「メディア社会制度media social institution」の未整備を指摘した。メディア企業にとっての自由度の拡大は、アカウンタビリティの履行を難しくしているとの見方も示された。

 問題提起を受け渡辺会員は、アカウンタビリティを「説明責任」とする訳語は誤りであり、マクウェール氏の議論を引きつつ「責任を自覚し、履行すること」ととらえるべきだと指摘し、メディアの「起因責任」とオーディエンスの「購入者責任」の2つが合わさることで、表現の自由を阻害することなくアカウンタビリティを実現することができると述べた。質疑応答では、いわゆる自由主義国家以外の国においても、マクウェール氏の議論は妥当するのかという質問が出された。マクウェール氏は「それらの国々が言論の自由を求めるのであれば、この原則が確立されなければならないはずだ」と答えた。

 マクウェール氏のアカウンタビリティ論は、表現の自由との両立を意識した原則の上に組み立てられているとともに、インターネットの広がりやグローバル化など今日的な状況を踏まえて、さらに精緻な理論へと発展している。氏の問題意識を咀嚼し、分析に生かすことにより、日本のメディアのアカウンタビリティの現状、問題点の掘り下げた理解が可能になるものと思われる。

(記録執筆 赤木孝次 )