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■ 第31期第5回研究会(理論研究部会企画)終わる


 テーマ  :映像アーカイブ 〜誰が何のために作るのか〜
 日   時:2008年5月9日(金)
 場   所:慶應義塾大学三田キャンパス 
       東館4Fセミナー室
 問題提起者:安田和代(amky代表)
 討 論 者:岩垂 弘(平和・協同ジャーナリスト基金 代表運営委員) 
 司   会:諸橋泰樹(フェリス女学院大学)
  参 加 者:10名

 本研究部会では、公的機関による「保存すべき」映像や文書というアーカイブのイメージをいったん解体し、誰が、何のためにアーカイブをつくるのかという議論に立ち返って、2名のゲストをお招きし、討論を行った。

 個人映像作品、女性による作品、在日ブラジル人による作品などを収集し配給する事業amky(art media K.Y.)を立ち上げた安田氏は、70年代のパフォーマンスアートやフェミニストアート、アバンギャルド映画などとの出会いから、自分たちの手で作品を保存し伝えてゆく使命を実感し、1)配給することによる「点」から「面」への拡がり(次世代への伝達)、2)記録、コレクション、キュレーターのいないことや、再生ソフトの劣化や機材の変化への危機感(このままだと「歴史」がなくなってしまうおそれ)、3)ネットやデジタルメディアによる資本なしでの配給が可能な時代になったこと(市場に出ることの意味)、4)パーソナルな視点による市民社会の成熟(1人ひとりが表現できる社会)を指摘する。そして、アーカイブ的活動の運用にとって、(1)見る機会とチャンネル、(2)作品批評、(3)表現・制作のサポート、(4)経済的サポート、(5)(1)〜(4)のサイクルなどが必要だと提起した。

 きな臭い状況の中、平和ジャーナリストを育てたいという意図から、業界団体でも労組でも専門家集団でもない市民によるジャーナリストの顕彰制度、平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF賞)を立ち上げた元新聞記者の岩垂氏は、光の当たらない分野の本、記事、映像作品、番組など賞を授与してきた。しかしながら、1)市民によるアーカイブ活動の経済的困難性、2)資料保管場所やスタッフなど物理的困難性、3)多くの人に見せたいが著作権の壁、4)散逸する歴史的文化遺産(特に戦後の歴史を作ってきた社会運動のミニコミ、文献、ビラ、映像資料など)、5)そういった資料を残そうとしたい日本人の歴史認識のなさについて指摘する。そして、(1)日本社会運動資料センターの設立、(2)素封家や大学研究者への期待が提起された。

 これを受けて討論では、(1)雑然と集めていればアーカイブになるのではなく、系統化し、個別の表現主体を大切にし、出会わせることに研究者の役割がある、(2)そのような、市場化のメカニズムに対抗するというコンセプトがアーカイブにある、(3)マイナーな記録を集めておく視点(評価や歴史観)の重要性、(4)一方での市場のメカニズムに乗っているもの(ニュースやコマーシャル)の収集の必要性、(5)編集され切り捨てられた部分が、(たとえば)ニュースというパッケージ・表象で保存されることに対するオーディエンスや研究者のメディアリテラシーの必要性、(6)公的な記録と、埋もれた市民の記録の社会史的読み取りのダイナミズムによって歴史(観)を構築してゆく必要性、(7)電子メディアのアーカイブ化可能性の難しさ、などが指摘された。参加者は少なかったものの、単なる「映像資料・文書資料」と考えられがちなアーカイブ観を穿つ、貴重な研究会であった。

(記録執筆 諸橋泰樹)