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■ 第31 期第4回研究会(マルチメディア研究部会企画)終わる


テーマ:パーソナルムービーの公共性
     〜個人記録映像の上映会とアーカイブ化の実践より〜
 日   時:2008年4月19日(土)1時30分〜17時30分
 場   所:株式会社エルモ社歴史館〔名古屋市〕
 問題提起者:石原香絵(NPO法人 映画保存協会)
        松本 篤(NPO法人 記録と表現とメディアのための組織remo)
 討 論 者:小川明子(愛知淑徳大学)
 司   会: 松浦さと子(龍谷大学)
 参 加 者:19名

 フィルムの寿命は短い。劣化も早く、発火性の高いものすらある。しかし、磁気テープやデジタルディスクは驚くことに、フィルムよりもさらに寿命が短いという。映画保存協会(東京)は、映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人である。フィルム文化喪失の危機感から、無名の作品のなかでも個人制作のものなどデジタル化しアーカイブに保存している。のみならずそれ らの映像を「活かす」ための国際的な活動「ホームムービーの日」は日本でも各地に広がる。地域で映像を持ち寄って上映することで、放置され劣化して上映できなくなるものを減らすことができ、貴重な地域の映像資源を住民の共通の記憶に遺していく。報告の石原香絵は、そうした活動に欧米では公的な支援が潤沢にあることを紹介した。

 記録と表現とメディアのための組織remo(大阪)は、AHA[人類の営みのためのアーカイブ]の活動で、同様に個人の家庭に眠るフィルムの発見保存を呼びかける。そしてそれにまつわる個人的な記憶を「社会的・知的な文化財産」と捉えなおし、地域の人々や親族間の縁の場所での出張上映会を組織する。高度成長期前期の日本の風景、当時の子どもたちの服装、食事の献立、運動会の競技など、懐かしく当時を思い出すフィルム提供者のつぶやきを巧みなファシリテーションで引き出し、会場に会話が生まれる過程を重要視する。報告の松本篤氏は、それらの活動資金が自治体行政の補助金に依存せざるを得ないことを告白する。

 これらの報告に対し、討論者の小川明子会員はBBCのキャプチャー・ウエールズの試みに見る、個人の主観的表現による小さなストーリーについて問いかけた。語り合われることで大きな物語をつむぐ個人の「主観」の意義について検討を迫る。それらの「公共」性をいかにして見出すのか。この日上映したフィルムは『お堀電車の最後の日』。会場にはそれを記録した高齢のカメラマンが参加しており、大勢の鑑賞者を得た充実感を声にされた。議論では、それらのフィルムが放送されることや、公共財源を得ることを目指すだけのために公共性にこだわらなくてもいいのではないかという意見が聞かれた。

 研究会のディスカッションの前に、フィルム愛好家を含む参加者は、会場を提供くださったエルモ社歴史館を訪問し、20世紀に始まる日本の「上映」の歴史を振り返った。国産最初の16ミリ映写機(1927年・昭和2年)など歴代の機器とともに、上映風景の写真展示もあった。学校や公民館における「上映」が国民教育の機会とされたことも彷彿とさせた。それぞれの時代、スクリーンの前にいた人々は大衆なのか、公衆だったのか。現代において家庭に眠り続ける貴重な映像遺産の発見と保存のための活動を支援するとともに、個人宅に眠っていたフィルムの上映という「事件」が、何を生み出せるのか、何が生まれるのかを問い続けたい。

(記録執筆 松浦さと子)