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第31期第15回研究会「映像アーカイブを用いたメディア研究の方法論と課題」(理論研究部会)終わる

日 時:2009年6月5日
場 所:キャンパスプラザ京都
問題提起者:辻 大介(大阪大学)、藤田真文(法政大学)
討論者:小林直毅(法政大学)
司 会:北田暁大(東京大学)
参加者:27 名
記録執筆 :北田暁大

近年、新聞、雑誌、広告などメディア関係の資史料を素材としたデータベース、アーカイブ、ライブラリーが様々な領域で整備されつつある。こうしたデータベース、アーカイブの充実は、マスコミュニケーション研究、メディア研究の領域の具体的な研究の展開においてどのような役割を果たしうるか、またそこにはどのような問題点、課題があるのか――本研究会はこうした問題意識に立脚し、具体的な研究事例の検討を通して、将来的なアーカイブとマスコミュニケーション研究との関係性のあり方を模索するべく企画された。

第一報告者の辻大介会員は、放送初期テレビCMのデータベース(映像プロダクション「TCJ」と「さがスタジオ」が保管していたテレビCM映像をデジタル化したもの)を用いた広告研究の成果と課題について、計量的な方法論具体的な研究実例を挙げつつ報告し、映像アーカイブスを用いた研究の可能性と問題点(課題)を指し示した。様々な観点からデータ処理を施し、1960-62 年付近にテレビCM表現の「画期」があったとする知見を得るとともに、データの代表性をめぐる問題性やデータベース作成時の文字起こしにともなう困難、表現分析だけからは考察しえない外的コンテクスト(視聴のコンテクスト)の重要性、タグ付けの持つ権力性など、重要な理論的・方法論的提言がなされた。第二報告者の藤田真文会員には、RKK熊本放送「報道ライブラリー」に保存されているニュース映像素材をもとに、水俣病の初期報道をめぐる具体的考察を紹介していただく同時に、テレビ研究における映像アーカイブス利用の可能性を多角的に考察していただいた。さらに、水俣病報道をめぐる映像データについて、環境社会学者などメディア研究、マスコミ研究以外の領域に位置する研究者がどのような点に着目し、意味づけするか、といったデータ解釈の多文脈性を念頭に置いた「書誌学的」な取り組みについても議論がなされ、アーカイブを用いた研究それ自体が内包する文脈性が重要な論点として提示された。

二つの報告を受け、小林直毅会員から、「CM表現に内在的なアーカイビング」「外在的なアーカイビング」の差異に留意しつつ両者を結び付けていく必要があるのではないか、また「書誌とは何か」という問いをさらに理論的・思想的に展開していくことができるのではないか、水俣の表象の多元性と、特定の(特権的な)表象によって再生産されていく集合的記憶をどのように考えていくべきか、といった問題提起がなされ、フロア全体に議論が開かれていった。