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第31期第13 回研究会「大学における「映像制作」実践の意義と理論的位置づけ
-何のためにどう授業するのか?参加者とともに考える-」(放送研究部会企画) 終わる

日 時:2009年4月18日(土)
場 所:立教大学池袋キャンパス10号館X104教室
司会者:砂川浩慶(立教大学)
問題提起者:小室広佐子(東京国際大学)
討論者:水越 伸(東京大学)
記録執筆:砂川浩慶

大学の授業での「映像制作」については、使用する機材の小型化・低廉化とあいまって、実践的な教育カリキュラムとして多種多様な展開が行われている。授業名、設置学部、指導者の経歴、授業形態、作品の種類など多様であり、「映像制作」の目的・ねらいについても、技術習得、職業教育、ジャーナリスト教育、メディア・リテラシー、企画力・協調性・社会性の獲得など様々である。一方、「映像制作」のようなメディア実践については、従来の講義中心の授業とは異なるため、大学での位置づけが不明確であることも否めない。

このような現状認識から本研究部会では、「映像制作」実践の意義と理論的位置づけについて議論した。問題提起者の小室会員からは、まず、大学内外から「映像制作」に寄せられる批判の声を紹介した。学内カリキュラムでは、実習科目の認定単位数が講義課目に比べ2分の1であること、職業教育に対する“アカデミック”な見地からの批判、論文実績が重要視される中、映像の作り手を指導者として任用することの難しさをあげた。また、学外からの批判としては、放送など映像制作業界からの期待の薄さをあげて、「果たして『映像制作』は、大学における専門教育として成り立つのか」と問題提起した。

これに対して、討論者の水越会員は、批判的メディア実践としてメディア・リテラシーに取り組んできたことを紹介。「大学教育において映像制作に意義があるかどうかは、これだけ多様な取り組みがあることからも既に実証済。大事なことは、その取り組みを大学内にどう埋め込んでいくかだ」とし、映像制作による人的なネットワーク性、教員自らも学ぶ協働性などの効果をあげて、「メディア・リテラシーにおいても“気づき”が重要だ。専門家と非専門家を結ぶことでさらなる充実が図れる」と指摘した。

このような討議に関して、42名にのぼった参加者からは活発な意見交換が行われた。「映像制作は道具であり、学生がその作業を通して“気づく”ことが重要」「制作・分析・内在・外在の4つの座標軸で効果を分析している。外部との関わりによって制作を通じた意義に触れることになる」「カルチャラルスタディーズとの関係性でメディア実践を捉えることが必要ではないか」「映像制作のみに焦点をあてることの意義は何か。文章作成などの実践授業もあるのではないか」「学生が制作した作品を公開することが重要だ。セオリーを作ることにつながる」「映像制作のメリットをもっと声高に主張すべきだ」などの意見が相次いだ。

従来、本学会ではあまり取り上げてこなかった「大学における映像制作」問題であるが、これを実践している研究者が集まる場という意味でも有意義な研究会となった。今後もこのテーマでさらなる検討が進められることに期待したい。