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第31期第12 回研究会「インデペンデントメディアのアーカイブ構築」(理論研究部会)終わる

日 時:2009 年4 月17 日(金) 18:30~20:00
場 所:東京芸術大学千住キャンパス音楽環境創造科第一講室
問題提起者:土屋 豊(ドキュメンタリー映画監督・ビデオアクト主宰)
討論者:丹羽美之(東京大学大学院)
司 会:毛利嘉孝(東京藝術大学)
参加者:45 名
記録執筆:毛利嘉孝

インターネットを初めとするデジタルテクノロジーの発達によって、近年独立系の映像作家や多くの一般市民たちが積極的に映像制作に参加するようになった。YouTube など新しいサービスの登場もあり、ますますテレビ局や映画会社以外の人々が制作した映像を日常的に見る機会が飛躍的に増大している。

こうした状況を踏まえて企画された今回の研究会では、ドキュメンタリー映画監督であり、自主制作映画の映像作品の普及・流通のネットワークである「ビデオアクト」を主宰している土屋豊氏が問題提起者として参加し、インデペンデントメディアの可能性とその問題点を、これまでの土屋氏自身の活動に即して報告を行った。

土屋氏の報告は大きく二点である。ひとつは、「ビデオアクト」のこれまでの活動の報告である。1999年に発足した「ビデオアクト」はそれまでばらばらに流通を行ってきた自主制作映画を紹介する共通カタログを発行し、アクセスしやすい窓口を設置することで、作り手と受け手の流通がスムーズに流れる仕組みを作ろうとしたものだ。カタログ以外にもインターネットのホームページがあり、監督やテーマ毎に分類されていて、簡単に欲しい映像が検索できるようになっている。現在では180を超えるタイトルが紹介されており、一種のライブラリー的な役割を果たしている。

もうひとつは、昨年北海道で開催されたG8にあわせて作られた「G8メディアネットワークTV」プロジェクトである。インターネットを通じてG8の背後で起こっているさまざまな様子をリアルタイムで世界中に発信しようとしたこのプロジェクトは、今もなおホームページとして残っており、今後のG8に関わるさまざまな市民がいつでも参照できる未来のアーカイブとして活用されることが期待されている。

土屋氏自身が中心的に関わっているこの二つのプロジェクトは、どちらも社会の動向と密接に絡まり合い、大きな注目を集めている。とりわけ、こうしたボトムアップ型のメディアは、既存のマスメディアが報じきれない情報や異なった視点・見解を広く発信するメディアとして、ますます重要な役割を果たすことが期待されている。

報告者の発表を受けて、討論者の丹羽美之会員は、アーカイブの歴史を紐解きながら、そもそもアーカイブ化が政治的手段であること、その情報の管理がひとつの権力であることを指摘し、アーカイブの民主化の必要性を主張した。

その後、会場の参加者を交えて活発な質疑応答と議論が続き、こうしたインデペンデントメディアと社会との関係、メディアリテラシー教育など教育機関における活用、財政的基盤、デジタル化された際の著作権や再利用の問題等、その可能性と問題点が論じられた。まだ始まったばかりのメディアであり、すぐに何らかの結論を出すべきものではないかもしれない。けれども、今後のメディア環境の重要な軸であるという点では研究会参加者は認識を共有しており、実践者を含めて継続的な議論をしていく必要性を感じさせられた。