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■ 第31期第10回研究会「映像メディアにおける音分析へのアプローチ」(メディア史研究部会)終わる


日   時:2009年1月31(土) 14:30~18:00
場   所:東京国立近代美術館フィルムセンター小ホール(東京都中央区京橋)
問題提起者:大傍正規(京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程)
討 論 者:今田健太郎(京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター特別研究員)
司   会:板倉史明(東京国立近代美術館フィルムセンター研究員)
参 加 者:20名
記録執筆 :板倉史明


映像メディアを分析する上で見過ごされがちな「音」に着目した本研究会では、映画学および音楽学の立場から、大傍正規氏と今田健太郎氏にそれぞれの分析の方法論や特徴を解説していただいた。

まず大傍氏から、欧米の映画学における音研究の推移をまとめてもらい、映画監督の生み出す音を作家主義的に分析することが主流だった1980年代から、映画館という場で鳴り響く伴奏音楽や歌手や弁士のライブ・パフォーマンスなど、映画上映のコンテクストまで含めた音の分析に重心が移った1990年代への移行が解説された(前者の代表的書物は、ジョン・ベルトン他編Film Sound, 1985、後者はリック・アルトマン編Sound Theory/Sound Practice, 1992)。さらに、ミシェル・シオンの『映画にとって音とは何か』(勁草書房、1993年)において展開されている映画の音の三つの領域(邦訳では「フレーム内」「フレーム外」「オフ」)を、物語世界(diegetic)/非物語世界(nondiegetic)、または、音源なしで聞こえる音の領域(Acousmatic Zones)/音源が視覚化された領域(Visualized Zone)、という観点から読み解くことによって、より正確にシオンの図式を理解でき、さらに映画以外のメディアにも十分応用可能なことが説得力をもって指摘された。

それを受けた今田氏は、「映像メディアに内包された音響的知」と題して、専門領域である日本の伝統音楽の知識を踏まえた映像メディアの音分析の可能性を解説した。歌舞伎における「陰囃子」とは、舞台においてもっとも焦点になるべきなにかを引き立たせる、いわばスポットライトの役割をもっている音であるが、今田氏は、この「陰囃子」的要素が日本の無声映画における弁士の語りや伴奏音楽に継承されただけでなく、新派劇の効果音を開拓した4代目中村兵蔵によって初期のラジオへも引き継がれたのではないかという仮説を提示した。さらに、現代のアニメーション『天空の城ラピュタ』(1986年)における日本版と北米版の音の違いを例示し、日本版には「陰囃子」的な要素が強いことを指摘した。

なお、お二人の発表の前に、開催場所である東京国立近代美術館フィルムセンターを効果的に活用するため、発表テーマに関連する所蔵フィルムを上映した。質疑応答時には発表内容についての議論だけでなく、上映作品についても活発な意見交換が行われた。音研究を基軸にして、映画、演劇、ラジオ、アニメーションなどへと話題が広がった本研究会をきっかけにして、領域横断的な「映像における音」研究を日本でも活性化させることを今後の課題として提示し、研究会は盛況のうちに終了した。