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■第30期第6回研究会(ジャーナリズム研究部会企画)終わる

テーマ:「取材源秘匿・情報源明示・署名記事とジャーナリズム」

報告者
    (1)横内一美(山梨学院大非常勤講師)
「取材源秘匿をめぐるアメリカの動向ム州のシールド法制を中心に」

    (2)藤原健(毎日新聞東京本社編集局総務)
「情報源明示・署名原則と取材源秘匿ム現場の取り組みから」

 司会者 田島泰彦(上智大学)

日 時:2006年3月18日(土) 14:00〜17:00
場 所:上智大学7号館12階第二会議室

 アメリカでは、ミラー記者事件を契機に取材源秘匿が改めて大きな争点として議論されてきた。日本でも近年、裁判でこの問題が争われ、異なる司法判断が相次いで示される一方、自治体の百条委員会への記者の出頭要請も増え、また最近では記者による放火事件に関わり記者室が捜索されるような事態も生じた。他方では、出所をあいまいにして情報を伝える手法を批判し、情報源の明示を求める議論もあり、記事の署名化に積極的に取り組む新聞社も現れている。

 こうした状況の中、ジャーナリズム研究部会では、ジャーナリズムにとって重要な課題である取材源秘匿をめぐるアメリカと日本の動向を踏まえ、取材源秘匿や情報源明示、署名記事などをめぐる法理と倫理を総合的、統一的に理解する必要を感じ、研究会を行った。

 まず、アメリカの証言拒絶権の動向については、シールド法(取材源秘匿法)の制定状況を含め、横内氏から報告をいただいた。横内氏は、「アメリカではメリーランド州の初のシールド法制定(1896年)以来、現在まで31州とワシントン特別区で同様の法律が制定されており、未制定の19州でも修正第1条及び州憲法の第1修正類似の条項を根拠に記者特権が考慮されている」と述べた。また、アメリカの司法判断について、同氏は、「9人の裁判官が5対4で割れながら記者の証言拒絶権を否定したブランズバーグ事件の連邦最高裁判決(1972年)を受け、以降の連邦下級審及び各州における記者の証言拒絶権事件に同法廷意見や同意・反対意見のいずれかが採用されてきた」とも指摘。しかし9.11テロ以後、アメリカのジャーナリズム界は、取材・報道の自由が制約される状況にあり、司法における記者の取材源秘匿をめぐっても大きな変化が現れているという。

 これに関連し、横内氏は、ブランズバーグ事件の最高裁判決における同意意見(比較衡量による公益性テスト)が記者への特権付与の可能性と見なされる現状に異を唱えたPosner判事の連邦上訴裁判所(第7巡回区)判決(2003年7月)を紹介した。さらに同氏は、「ミラー記者収監事件以降はいくつかの州でシールド法制定の動きはあったが、シールド法の効力の及ばない連邦レベルでは現在までシールド法制定に至っていない」とし、「連邦裁判所で扱われる刑事事件の場合、司法がメディアの役割や記者特権を民主主義の重要な要素として考えない動きの中では連邦レベルのシールド法の成立が待たれる」と締め括った。

 一方、藤原氏からは、日本の報道機関における証言拒絶権の動向について報告があった。その中で、米国企業の日本法人が所得隠しをしたとする読売新聞の記事をめぐり、メディアの証言拒絶権を認めない今回の東京地裁決定(2006年3月14日)に対する新聞協会・民放連での緊急共同声明(同年3月17日)についても説明された。藤原氏は、「市民がメディアに対して冷ややかな視線をもっていることについて、ジャーナリズムが既得権益にしがみつき、情報源秘匿の重要性を十分説明してこなかったことに由来するのではないか」と指摘した。また、毎日新聞が十年前から試みている署名記事について、藤原氏は、「情報源秘匿の難しさが社内でも指摘されたものの、告発者を保護しつつ、当局が隠そうとする秘密を暴くことが目的であり、その導入によって読者に対する信頼を不作為によって損ねず、一層醸成していくことに繋がっているのではないか」と述べた。

 今回の研究会では両氏の報告を受け、韓永學氏が韓国の取材源秘匿に関する法律や学説、判例、そして署名記事などについて詳しく紹介がなされたのをはじめ、活発な論議が交わされた。その中では、取材源秘匿の確立の重要性とともに、ミラー記者事件で明らかになったような情報操作の場面でも秘匿を言い張ることへの疑問や、情報源の明示をジャーナリズムの原則として確認することが前提ではないかとの主張などが提示された。

(出席者40名)


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