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■ 第30期第5回研究会(放送研究部会企画)終わる


テーマ:「IPテレビの発展と放送秩序」

報 告 者:岸上順一(日本電信電話)
司 会 者:赤木孝次(日本新聞協会)
日  時:2006年1月20日(金) 18:30〜21:00
場  所:日本新聞協会大会議室(日本プレスセンタービル7階)
参加人数:21人


 インターネット・プロトコル(IP)を利用した放送サービスの「IPテレビ」が近年、注目を集めるようになってきた。2005年7月の総務省・情報通信審議会の第2次中間答申に、地上デジタル放送の(補完的)伝送路の一案としてIPテレビによる再送信が盛り込まれたことも一つの契機だ。放送と通信の「融合」、連携時代におけるキープレイヤーの一つであるNTTも、ビジネスモデルの確立を模索している。既にイタリアでは、独立系通信会社の「ファーストウェブ」が、IPテレビで大きな経営的成功を収めた事例もある。日本で今後、IPテレビは普及していくのか。その場合、既存の放送の制度、文化、経営にどのような影響を与えるのか――。こうした問題意識から放送研究部会は、NTTの中期経営戦略推進室サービス戦略担当理事である岸上順一氏を招き、研究会をおこなった。

 岸上氏は放送、通信を取り巻く全体状況、データ・音声・ビデオ(映像)の「トリプルプレイ」を掲げる通信キャリアの戦略などをもとに、IPテレビの技術開発、事業展開の流れを概説した。著作権など権利処理については、放送と通信で法制度、関連技術規格が異なる問題点が指摘された。そして、今後の普及に向けて岸上氏が最も強調したのが、コンテンツの重要性である。メディアとしてのケータイの普及において着メロ、着うたという新しいコンテンツが果たした役割などに言及した上で、岸上氏は「IPテレビが広まるためには、その特性を生かしたコンテンツ(あるいは、コンテンツ流通システム)が登場するかどうかが鍵になる」と述べた。視聴者の細分化したニーズに対応した番組配信、関連サービスを行う「パーソナライゼーション」など、クロスメディアに適合したコンテンツ流通やメタデータ利用のあり方が、アイデアとして挙げられた。

 出席者とのディスカッションの中でも「IPテレビ、放送・通信連携時代のコンテンツのあり方」に関心が寄せられたほか、IP再送信に伴う制度上の問題などが議論された。また、「市民が作るコンテンツの放送をIPテレビの中に位置づけていくことはできないか」との意見も出された。

 マス・コミュニケーション学会では従来、放送と通信の将来像を考える際、放送局側の問題がより重視されてきたと言える。そのこと自体はある意味で当然だとはいえ、今後の放送秩序のあり方を考える上では、NTTなど通信キャリアの戦略、課題の分析が重要性を増すものと考えられる。今回企画した研究会が、一つの問題提起となれば幸いである。

(記録原稿執筆:赤木孝次)