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■ 第30期第2回研究会(マルチメディア研究部会企画)終わる


テーマ:「愛知万博とメディア:技術システムとポピュラー文化の相関」

司会者:小川明子(愛知淑徳大学)
報告者:水野泰志氏(万博協会情報センター/東京新聞)
    岡田朋之氏(関西大学)
コメンテーター:音好宏氏(上智大学)
        加藤晴明氏(中京大学)


 「イマドキ万博なんて」という批判をよそに、閉幕直前には徹夜入場組まで現れ、のべ2200万人が訪れた愛知万博。この万博を「メディア」の視点から考える研究会が9月10日、万博会場近くのNTT猪高会議室で開催された。それに先立ち、史上2位の人々で溢れた灼熱の万博会場内では、人ごみをかき分けながら、万博協会情報センターとNHKによる携帯電話の1セグメント放送のデモンストレーションの見学が行われた。

 その後、研究会では、まず、万博協会情報センターの水野氏から、「統合情報運用」システムの説明を受けた。このシステムでは、万博協会発表の情報のみでなく、交通情報や周辺地域情報なども扱うため、発信者も多方面に及び、ユーザー側もあらゆるメディアを利用して閲覧する。また情報編集に携わるのも放送、通信、新聞など様々な背景を持った人々である。こうした多種多様な情報が行き交うプラットフォームを作り上げる際に、プロフェッショナルなテクニックを持つ各組織といかに「コラボレーション」を築き上げるかが成否の鍵を握っている旨が現状とともに述べられた。

 一方、自ら「リピーター」として何度も万博を訪れた岡田氏からは、大阪万博が国家的な万博であったことと比べて今回は個人の万博経験が多様化していること、シアター型/実写型よりも、体感型/参加型パビリオンに人気が集まっていること、また新しいメディアの活用によって、個人レベルの万博情報が行き交っている現状などが報告された。

 この後、コメンテーターから、万博を通じて生まれたこうした情報ツールが今後どのように地域の報道などに還元されていくのか、万博のネガティブ報道が全くない地元メディアとそれを取り巻く状況に問題はないのかなどの問題提起がなされた。 その後の討論では、地元と東京との温度差が浮かび上がった。毎日万博情報にさらされ続け、口コミ、実体験などによっても万博に「取り込まれた」生活を送っていた地元からの参加者と、その異常ともいえる盛り上がりが理解できないままふらりと訪れた他地方からの参加者との間には、当初、万博の現状認識において深い溝があった。このギャップの理由を解き明かすために、研究会の成果を踏まえ、愛知万博を地元の視点から再構成して分析する書籍の出版が検討されていることも付け加えておきたい。

(愛知淑徳大学:小川明子)