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■ 第30期第19回研究会(国際交流委員会企画)終わる


テーマ:「市民社会のなかの公共放送の位置――各国の実情と比較して」
日   時:2007年4月24日(火) 18:30〜21:00
場   所:日本新聞協会 大会議室
報 告 者:隅井孝雄(龍谷大学)
討 論 者:岡村黎明(元立命館大学教授)
司   会:柴田鉄治氏(元国際基督教大学客員教授)

 まず基調報告の隅井孝雄氏から「体験的公共放送論」として、自ら体験・調査したアメリカの場合、ドイツの場合について詳細な報告があった。

 アメリカの公共放送については、日本ではあまり知られていないが、日本と違って多様性に富み、社会的信頼度も非常に高い。J・F・ケネディが創った国の補助金分配機構、CPB(公共放送コーポレーション)のもとに、PBS(公共放送サービス)、NPR(全国公共ラジオ)、C-Span(ケーブル、衛星、パブリック・アフェアー・ネットワーク)などが多彩な放送をおこなっている。

 放送内容の質が高く、ニュースの時間に議員や学者などもよく登場する。議会の公聴会の中継なども多く、社会のリーダー、インテリたちがよく見ており、社会的な影響力も大きい。

 国からの補助金だけでなく、個人や企業からの寄付金や協賛金も、年間10〜20億ドルあり、「この放送はあなた方によって支えられています」としばしば放送している。

 最近、ブッシュ大統領によってCPBの会長に押し込まれたトムリンソン氏(元VOA会長)が、ある有名なキャスター(ビル・モイヤーズ)のニュース番組を「偏向している」と槍玉にあげ、キャスターを降ろそうとして大騒ぎになった。しかし、会長のほうが逆に辞任に追い込まれた。「政治に弱いNHK」には、見習ってほしいエピソードだ。

 一方、ドイツの公共放送は、州ごと局の連合体ARDと全国放送のZDFの二つあって、どちらも「ナチ時代の反省から生まれた」ことを強調しており、放送局の人はみんな60年間の歴史を語る。

 ドイツでは、民間放送に地上波周波数の割り当てはせず、ケーブルテレビなどに「封じ込めて」おり、公共放送の比重はきわめて高い。

 NHKが会長のもとに中央集権的な組織運営をしているのとは対照的に、ARD局には会長もいなくて、地方分権の連合体が全国放送の面倒を見ている。各地方の放送協議会が放送をコントロールしており、仕組みがしっかりしている。

 この基調報告に対して、岡村黎明氏が問題提起者のポイントとして、「日本のNHKのあり方が厳しく問われているいま、市民と公共放送について考えることの意義はきわめて大きい」と前置きして、最近、まわってきたイギリス、フランスの公共放送についての見解を付け加えて披露した。

 岡村氏は、まず国際比較研究では背景となる文化、歴史、政治、社会などへの配慮が欠かせないことを強調し、すべて日本の枠組みに合わせて理解しようとすると、間違える恐れがあることを指摘。たとえば、イギリスのBBCをいつも「イギリスのNHK」として考えるべきではないと語った。

 そのうえで、イギリス、フランスの公共放送と政府との関係には学ぶべきものが多いと述べ、「国営放送もよし」として民間放送と競わせることを国策としているフランスの場合、政府とメディアとの間には相互に「ここから先は立ち入らない」という暗黙の一線があるように見受けられた、と報告した。

 このあと、質疑応答、討論がおこなわれ、外国の状況と比較してのNHKのあり方論がやはり論議の焦点となった。「NHKと政府・自民党との関係はどう見ても異常である」「いい番組も作っているのに、政治問題になるとバランス感覚が狂うのはなぜだろう」「放送・電波の管理は、やはり政府から独立した委員会に戻すべきだ」などの意見が出た。
 (記録執筆:柴田鉄治)