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■ 第30期第15回研究会(理論研究部会企画)終わる


テーマ:「映像人類学とメディア研究のクロスロード」
日   時:2007年3月16日(金) 17:00〜20:00
場   所:大阪市立大学文化交流センター 小セミナー室
問題提起者:分藤大翼(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科)
      村尾静二(総合研究大学院大学)
討 論 者:石谷治寛(京都造形大学)
      丹羽美之(法政大学)
司   会:石田佐恵子(大阪市立大学)
参 加 者:25名

 テレビメディアのグローバル化、テレビとインターネットとの融合、インターネット上の国際的な映像配信など、近年の映像文化をめぐる急速な状況変化から、映像文化のグローバル化をめぐる問いも、それらの状況に呼応して新たな展開が求められてきている。今回の理論部会研究会では、近年注目を集めているメディア人類学や映像人類学の諸潮流を理解するための機会を設けることにした。映像人類学は、トランスカルチュラルな映像制作において長い歴史と伝統を持っており、ドキュメンタリー番組を中心に、テレビ・テクストの制作現場にも少なからぬ影響を及ぼしてきた。そこで、この分野の最前線で活躍している二人の若手研究者を招き、報告をお願いした。

 第一報告「セルフ・ドキュメンタリーと映像人類学」(分藤大翼さん)は、まず、カメルーンで撮影した映像作品『Wo a bele −もりのなか−』の短縮版(約8分)を上映。オリジナル版は、二〇〇五年にスカイ・パーフェクTVで放送されたセルフ・ドキュメンタリー・シリーズの三〇分番組である。続いて、人類学者としてのフィールドの経験と映像を作ることとの関係が詳しく語られた。すなわち、調査研究という実践のなかで論文を書くことと映像作品を作ることの関係、映像を作り・見る側のおかれた社会状況と映像に写された〈現地〉の人びととの関係、などである。報告の後半では、セルフ・ドキュメンタリーの制作を可能にしている3つの要因として、(1)ドキュメンタリー映画の主題の変化、(2)制作機器の変化、(3)メディア環境の変化、の各項目が議論された。

 第二報告「映像人類学の諸問題」(村尾静二さん)も、人類学者としてのフィールドとのかかわりと映像制作との関係を報告の導入とした。村尾さんは、映像理論研究や美学研究から出発し、理論と実践の両面から映像人類学のプロジェクトに携わってきた。主なフィールドは、インドネシア共和国のスマトラ島で、研究論文の執筆と並行して、映像作品の制作に従事している。村尾報告の概要は、 (1)映像人類学とは何か、映像人類学と民族誌映画をめぐる研究状況の概観、(2)映像人類学の確立と構想された諸問題、(3)制作プロセスをめぐる考察、(4)理論と実践からなる映像人類学の可能性、である。

 二つの報告を受けて、討論者二名から以下の論点が呈示された。

 第一討論者の石谷治寛さんから出された論点は、以下の通り。 (1)映像を受容する場所の問題:映像人類学による作品(民族誌映画)は、どこで見られているのか/どこで見られるべきなのか、テレビメディア自体の変容、YouTubeや美術館など、マスメディアではない媒体の可能性と、人びとが映像を見る場所との関係。(2)教育ツールとしての映像の役割:映像人類学が目指してきたネィティブによる映像作品制作支援プロジェクトと、市民メディアやメディアリテラシー・プロジェクトとの類似性、それぞれの問題点。(3)民族誌映画における「再現映像」の問題:フィクションとしての映像、物語の再演と〈事実性〉との関係。

 第二討論者の丹羽美之さんから出された主な論点(および質問)は、以下の3つである。(1)トランスカルチュラルな映像制作をめぐる問題:「他者」を表象していくという営みの政治性の問題。研究論文制作と映像制作の違い。商業映像と研究資料映像の違いとは何か。「自己」をめぐる映像制作の問題。(2)映像制作者であることと研究者であることとの越境性:映像制作に実践的にかかわりながら、映像についての人類学を行うこととはいかなることなのか。急速に発展する映像配信技術の世界規模での広がりを受けて、映像人類学の果たす役割とは何か。 (3)研究領域間の越境性:映像に関するさまざまな研究主体を結びつけ、関心を共有するためには何が必要なのか。どのような場が、その協働を可能にするのか。

 ここでの議論を通じて、一九七〇年代までは、日本におけるテレビ・ドキュメンタリーの歴史と映像人類学の展開の歴史には重なり合う部分が大きかったにもかかわらず、一九八〇年代以降は大きく距離があいてしまった、という認識が共有された。メディア研究と映像人類学、映像制作実践と分析研究の理論的・実践的な協働がいっそう進展する契機となれば、と願っている。

 当日は、遠方からも多様な関心を持った参加者が集まり、さらに多くの論点が出され、熱心な議論が展開された。密度の濃い、充実した研究会となったことは間違いないが、予定された時間では捌ききれないほど議論が広がったこともあり、今後のさらなる研究会の企画と展開とに期待したい。
(記録執筆:石田佐恵子)