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■ 第30期第13回研究会(放送研究部会企画)終わる


テーマ:「放送制度における公共放送の行方」
日 時:2006年12月21日(木) 18:30〜20:30
場 所:日本新聞協会 7階大会議室(日本プレスセンタービル7階) 
報告者:山 本 博 史(メディア評論家)
司会者:村 澤 繁 夫(日本民間放送連盟)
参加者:15名


研究会は、各方面で放送改革論議が続く中、公共放送の在り方から見たNHK、現実のNHKから見た公共放送の在り方について、今後の放送制度における公共放送の位置付けを中心に考えることを趣旨に開催された。

山本氏の報告は、前提として、日本の放送制度自体が国民に十分理解されていない状態では、公共放送の行方を基本から論じられる状況にないとの示唆を含んだものだった。放送法を読んでも放送制度の仕組みや現状は全くわからない。過去の郵政省研究会等での議論でも、二元体制の必要性や個々の改革課題、NHKの新サービスの進め方に主眼が置かれ、公共放送とは何か、どういう仕組みが必要かといった公共放送観は何もない。制度的にも国民の意見が反映される仕組みがなく、放送制度の在り方自体が一般国民からほど遠いものになっているといったことを、まず問題視した。

次いで、放送法には公共放送の用語も定義もなく、民間放送の役割に関する規定もない。NHKの保有チャンネル数や各波の役割も放送法にはなく、放送法の問題にならない。すべては告示の放送普及基本計画で決めており、大臣が決められる仕組みになっている。制度上、NHKの目的は、あまねく受信と、豊かでかつ良い番組の放送、に集約されるが、豊かでかつ良い番組とは何か、これ以上深めた説明はなく、具体性が乏しい。これらを除くと、NHKの“目的”は、“業務”と同じで、新しい業務ができると、そのままNHKの業務、目的規定として取り込まれ、膨らんでいくのが日本の特徴である。放送制度の在り方を考えるには、視聴者の意見がもっと反映される仕組みが必要であり、それには、NHKや民放の役割がもっと見える形で示され、放送法の解説書がもっと出されるべきだと提言した。

意見交換では、視聴者の意見を反映する仕組みについて、「地方自治法の、使途に疑問があれば受け付けるなどの仕組みを参考に、NHKに対する質疑や答えがホームページで公開され、広く見られる仕組みが必要だ」「視聴者意見の反映を担保する仕組みが法制度によるべきかどうか」、また、放送の目的・役割等を厳格・具体的に法に規定する考え方については「日本の放送制度は曖昧模糊で、政・官・事業者に都合の良い仕組みだが、諸外国の制度同様、その国の歴史や伝統から成り立っていることを考慮する必要があるのでは」あるいは「NHKは国営放送とちがう公共放送なのだということから放送法を書き直すべきだ」との意見があった。山本氏は「公共放送の定義はないというのが私の基本的な出発点。結局、公共放送・NHKに何を求めるかだ。それを国営放送と言うかは定義の問題」との考えを示し、「公共放送は、公正に見られるかどうかが重要。番組編成、制作のプロセスを明らかにして番組編成上の多様性や公正さが明らかにされている実態が大事だ」と補足した。公共放送・NHKの在り方や放送制度自体の在り方について、論じるべき問題が、多々残されていることがあらためて浮き彫りになった研究会であった。(記録執筆:村澤繁夫)