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■ 第29期第16回研究会(国際交流委員会企画)終わる


テーマ:「世界の公共放送を考える:イギリス、ドイツ、日本」

報告者:柴 田 鉄 治(国際基督教大学)
    隅 井 孝 雄(京都学園大学)
    鈴 木 み ど り(立命館大学)
司会者:隅 井 孝 雄(京都学園大学)
日 時:2005年4月4日(月)18時30分〜21時
会 場:上智大学7号館11F第4会議室
参加人数:31名


 本研究会は、当初、イギリスの公共放送BBCのジョナサン・ヘッド東京支局長を招き「イギリスのテレビジャーナリズムの現状」について報告をいただき、それを受けて、世界各国の公共放送について参加者とともに考えるために企画されたものである。ところが、当日の朝になり、予定していた報告者が前日のローマ法王逝去に伴う取材のため、突如、フィリピンへと離日されるという予想外の事態に遭遇した。そのため、急遽、テーマを上記のように変更し、討論者と司会者に予定していた柴田鉄治と隅井孝雄の両会員、それに鈴木みどりを加えた三名を話題提供者に、それぞれ日本、ドイツ、イギリス、の公共放送について現状と問題点について報告し、後半で参加者とともに意見交換と討論をもつ形で開催した。

 報告では、まず、鈴木がイギリスBBCの「番組制作者のためのガイドライン」(BBC Producers’ Guidelines) をとりあげ、その序文(邦訳を配布)で述べられているオーディエンスの信頼に応えようとするBBCの積極的な姿勢、Editorial Valuesとして示されている「公共的目的」のなかに中立性、正確性、公正性、編集の独立性、などとともに「多様な人びとと文化に対する十分で公正な見方の提示」、「インタビューを受ける者に対する公平性」、「商業的利益からの独立」などの今日的状況を踏まえたValuesが明記されていること、などについて説明した。

 ついで隅井会員による報告では、最近訪れたドイツを中心に、欧米諸国の公共放送の制度的な側面について、独自に作成した資料(配布)を使って説明し、日本の公共放送との相違点などが論じられた。比較対照点は、所轄官庁、監督機関、経営委員会の構成と位置づけ、受信料制度のあり方、経営形態、財源、年間収入、放送チャンネル数、などである。監督機関としては、政府から独立した行政機構が多くの国で確立されているが、なかでもドイツでは、公共放送ADR、ZDFのいずれにも社会各層を代表する多数の委員で構成する放送評議会があり、会長の任免、助言、番組基準の遵守の監督、予算・決算の承認などの基本業務を審議決定する権限をもっている。

 三人目の柴田会員による報告では、日本の公共放送NHKの何がどのように問題であるかについて「組織ジャーナリズムの危機」という観点から分析がなされた。議論は放送政策の歴史を遡る一方で、最近の「NHK と朝日新聞の激突」の背景にある問題の数々を分析するなど多岐にわたった。もっとも大きな問題は、政治家との距離の近さ、経営第一主義など、テレビ、新聞などの組織が劣化していること、それによってジャーナリストの「個の志」が殺されつつあることであるとし、この現状を変える手がかりのひとつとして、記者クラブ制度の解体が提案された。

 以上の報告を受けて、参加者からはラジオ放送80年である現在、戦前のNHK創設、戦後から放送法ができるまで、戦後のNHK転換期、などの歴史的経緯を改めて研究する必要があること、また諸外国の公共放送との比較においては編集権と経営の関係、社会的・文化的な違いをどう考えるか、など、さまざまな発言が続いた。参加者は30名を超え、日本における公共放送NHKのあり方が大きく問われている時期でもあり、活発な議論と意見交換が行われた。

(記録執筆:鈴木みどり)