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■ 第29期第15回研究会(ジャーナリズム研究部会企画)終わる


テーマ:「英国の新聞タブロイド判化傾向とジャーナリズムの変容〜日本からの視点」

報告者:谷 藤 悦 史(早稲田大学)
討論者:森   治 郎(朝日新聞)
司会者:大 島   透(毎日新聞)
日 時:2005年2月23日(水)18時30分〜21時
会 場:日本新聞協会大会議室(日本プレスセンタービル7F)
参加人数:17名


 英国の高級紙が、ブロードシート判からタブロイド判に相次いで転換している。英国では、高級紙はブロードシート判のサイズであり、王室や芸能界などのゴシップやスキャンダルが売り物の大衆紙はタブロイド判のサイズという了解事項があった。だが、高級紙のタブロイド化とは、単にサイズを変えたということにとどまらない。高級紙はサイズの変化と同時に、記事内容も大衆紙化しているのである。高級紙によるタブロイド判の発行は、2003年に『インディペンデント』、『タイムズ』の順に続き、他紙も検討中という。

 こうした流れの背景を探るため、まず谷藤氏が、19世紀以降の英国のジャーナリズム史を概説した。同氏によると、英国では主に中産階級の新聞が政治主張、客観主義、批評を特徴とする高級紙(ブロードシート)であり、労働者階級の新聞がゴシップなどで読ませる大衆紙(タブロイド)とされてきた。ところが戦後、強固だった階級意識がゆるむとともに新聞の性格も溶解し始めた。特に保守党と労働党のイデオロギー対立が見えにくくなった80年代以降、新聞は売上げを伸ばすためなら無原則に支持政党すら変えるようになった。一方、タブロイド化で記事も変質した。ファクト(事実)の客観報道よりもストーリー(読み物)作りが重視され、複雑な政治的争点は「ブレアvs●●」のように象徴的な人物に置き換えられ、錯綜する事象は「善玉対悪玉」などの2項対立の形に単純化され、記事はタブロイド1ページ分で読み切れる長さに圧縮される。同氏はこうした記事のタブロイド化が、英国人の社会意識や思考様式のタブロイド化へとつながっていると指摘した。

 続いて森氏は、内容のタブロイド化という英国新聞界の競争が、90年代には価格競争につながっていった状況を解説した。同氏によれば、値引き合戦は結局、各新聞社の体力を落としただけで、全体の部数増にはつながらなかったうえ、この競争は広告収入のみで運営する無料の新聞、フリーペーパーを台頭させた。大衆紙『デイリーメール』紙の発行会社が読者増を狙って発行した無料のタブロイド判『メトロ』紙は今や英国だけで100万部に急成長した。朝日新聞の活字を大きくするなど長年、新聞編集に取り組んできた同氏は、日本でも無料の新聞が選ばれる時代が目前まで迫っていると指摘、従来の新聞発行のあり方に警鐘を鳴らし、会場の参加者との間で活発な討論が交わされた。

(記録執筆:大島 透)