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■ 第29期第14回研究会(マルチメディア部会企画)終わる


テーマ:「地域情報におけるモバイル・インターネット活用の可能性」

報告者:寺 岡 伸 悟(甲南女子大学)
    藤 本  幸 一(オムロン)
司会者:岡 田 朋 之(関西大学)
日 時:2005年1月29日(土)14時〜17時
会 場:関西大学天六キャンパス 大学院講義室
参加人数:12名


 インターネット利用の端末として、携帯電話が確固とした地位を得たことは言を待たないが、日常における生活情報の受発信媒体としてとらえた場合、インターネット携帯電話がどのような可能性を持ちうるのか。

 この問題について考えるうえで、まず第一報告としては、地域情報のくちコミ的伝達について実験的研究をおこなった寺岡伸悟氏(甲南女子大学)に話題提供をお願いした。寺岡氏は実験のねらいとして、ケータイを媒介としたくちコミ情報の伝達によって、ある地域における生活感覚にどのような変化があるのかをとらえることがあったという。方法としては、まず大学生モニタがそれぞれ友人を数名登録、大学最寄り駅の街の話題を中心とした話題を友人に伝えようとするときはサーバに情報をアップし、登録された友人の携帯電話にメールで通知が届いて、情報を読みに行かせる。読んだ者がその情報を面白いと思えば、さらにその友人に情報を伝え、くちコミ的情報が友人のネットワークを伝わっていくというものである。

 結果を要約すると、次の通りであった。内容は消費行動に関するものかうわさ話が主であり、それぞれの情報が、偶然何かを発見したという前半部と、それに関して何か得したという後半部から構成されていること。うわさの伝わるスピードや伝達力の強弱がとらえられたこと。また伝わるステップがある人数を介するあたりから、うわさの伝わらない割合が急速に増加するので、友人関係ではなくなるあたりで情報が伝わらなくなる、などという知見が得られたという。さらに、実験以後、被験者たちの街の認識が変化し、範囲が拡大したり、それまで意識されなかった小さな路地などにも目を向けるようになったことなどが紹介された。

 これらの知見はあくまである条件を設定した実験によっているという制約はあるものの、実際にネットワークを構築し、そこでネットワーク分析をこころみるというコラボレーションにより得られたという意義はきわめて大きく、同様な実験を他の年齢層や他の地域へ広げる意義が説かれた。

 つづく第二報告としては、藤本幸一氏に鉄道の自動改札と連動した、メールによる沿線情報の配信サービスである「グーパス」の事例紹介と、その可能性についてお話し頂いた。

「グーパス」は2002年から小田急線で「小田急グーパス」として展開、さらに2004年からは関西私鉄のPiTaPaというICカードを使った乗車券と連動した「PiTaPaグーパス」の提供がおこなわれている。これは携帯電話の利用シーンが「スキマ時間」である点を生かしたサービスであり、改札機のデータを取り入れることで、ユーザーの位置情報だけでなく、行動情報も把握することが可能となる。配信情報は広告とのセットで送られ、配信されたメールの中のURLに対する反応率が高いだけでなく、レスポンスの速さも特徴的であるとのことだ。

 効果が高かったと広告主から評価が高かったのは、飲食物などの駅の売店への誘導につながるものや、沿線そばのマンションの資料請求など、移動というシーンに直接結びつくもの。逆に効果がないとされたのは駅から遠い事業者の広告などであったという。また、同じ内容がリピートされるとユーザーのレスポンスが悪化するとのことであった。そのなかで、ユーザーのレスポンスを向上させるカギになるのは「お得感」であり、クーポンの導入などがおこなわれている。

 こうしたサービスは、今後ICカードの利用シーンが拡大し、電子マネーやIDカードなどとの結びつきの中で、さらに可能性を拡大していくと考えられている。

 質疑応答の中では主としてP2Pのメディアである携帯電話を通じたコミュニケーションの位置づけや、具体的にどのようにサービスを運用していくかについて活発な議論が交わされ、こうしたメディアの中での情報のフィルタリングとそのジャーナリズム性との問題、あるいは今回のような研究の中で得られるコミュニケーションモデルをマスメディアのモデルに逆照射してみることから得られる知見の可能性など、興味深い意見がいくつか示された。その意味で参加者それぞれにとって有意義なセッションであったが、今回、部会幹事以外の地元からの参加者がごくわずかにすぎなかったのは、きわめて遺憾だといわざるを得ない。

(記録執筆:岡田朋之)