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■ 第29期第13回研究会(ジャーナリズム研究部会企画)


テーマ:「横並び誤報の背景」

報告者:伊 藤 高 史(慶應義塾大学)
討論者:鶴 岡 憲 一(読売新聞社)
司会者:赤 木 孝 次(日本新聞協会)
日 時:2004年11月22日(月) 18:00〜20:30
会 場:日本新聞協会大会議室(日本プレスセンタービル7F)
参加人数:10名


 2004年後半、人の生死をめぐる報道で大きな誤報が相次いだ。イラクで武装集団の人質となった民間の青年、香田証生さんの消息について、日本の新聞の多くは当初、10月30日夕刊(および号外など)で異なった遺体を香田さんとほぼ断定して報じた。翌日には別の遺体が見つかり、香田さんと公式に確認された。共同通信社では、編集局長、ニュースセンター長、政治部長らが処分を受けるなど、加盟社、読者との関係で大きな責任問題に発展した。一方、新潟中越地震では、車ごと土砂に埋まった母子3人の救助に際して、多くのメディアが「母子3人無事」と報じてしまった。結果は、長男のみが生存し、母子2人は死亡が確認された。研究会では、これら2つの問題を手がかりに、誤報が発生するメカニズムとそこから浮かび上がる問題点、誤報を防ぐための方策などについて議論した。

 報告者からまず、共同通信社の事例を中心に経緯の説明があり、人の生死に常に関わっている社会部と、重要人物の発言を取ること自体に価値を置く政治部では、求められる「真実性のレベル」に違いがあるのではないか。イラク人質事件のケースは、「政治報道にありがちな、情報源を特定しないで記事を書く手法が許される慣行が生んだ誤報」ではないかとの発言があった。そのほか、通信社配信記事について掲載紙(地方紙)の責任をどこまで問うべきなのか、不確かな情報の場合「殺害か」など(断定をせず)疑問符を付けて報道を行うこと、情報源を明示することが重要である、などの論点を指摘した。また、新潟中越地震のケースに関して、「地元の人を応援したい」という心情的な要因から報道が先走ってしまったのではないか、との発言があった。

 討論者からは、全国紙の事例を中心に、経緯の説明と報告があった。新聞社組織の内部的な問題として、編集局と、原稿の内容以上に目立ちやすい見出しを付けようとする編成部(整理部)との違いを指摘し、誤報を生まないためには、両者の間でチェック機能が働くかどうかが重要であるとの発言があった。新潟のケースについては、一元的な発信情報にもとづく確認がはらむ問題点を指摘した。討論者はまた、「発表機関の公共性は情報の正確さの保障にならない」と述べ、公式発表を過度に信頼することなく、慎重に情報のクロスチェックを行うことの重要性を主張した。

 以上の報告を受け参加者からは、「編集局の責任があまり問われていないのではないか。組織体としてのチェック機能が働かなかったのはなぜか、考察する必要がある」「こうしたセンセーショナルな事件を前にすると、メディアは速報主義に引きずられ、重要な論点が問われなくなってしまうのではないか」などの発言があった。

(記録執筆:赤木孝次)