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■ 第29期第11回研究会(メディア史研究部会企画)終わる


テーマ:「エスニック・メディア研究の現状と課題」

報告者:水 野 剛 也(文教大学)
討論者:白 水 繁 彦(武蔵大学)
司会者:井 川 充 雄(静岡大学)
日 時:2004年4月9日(金)午後6時〜
会 場:日本新聞協会大会議室(日本プレスセンタービル7F)
参加人数:18名


 いわゆるグローバル化の進展の中で、エスニック・メディア、エスニック・ジャーナリズムについても近年多くの注目が集まるようになってきている。元来、エスニック・メディアに関する研究は、メディア史の研究として長年積み重ねられてきた経緯がある。そこで、メディア史研究部会では、エスニック・メディアの観点から、メディア研究・メディア史研究のこれまでの歩みを確認し、問題点や課題を明らかにするために、この研究会を企画した。報告者には、比較的若い世代で、在米日系新聞を研究している水野会員に問題提起をお願いし、これまでエスニック・メディア研究をリードしてきた白水会員に討論をお願いした。

 まず、報告者から、「エスニック・ジャーナリズム」の定義にかかわる問題、日本とアメリカにおけるエスニック・ジャーナリズム研究の経緯と現状についてレビューしていただいた後、これからの課題として、(1)研究者の「層」を厚くする必要がある、(2)インターネットやメールなどの利用を研究の視野に入れる、(3)日本国内の「在日」エスニック・ジャーナリズムについて研究を進める、(4)特定のエスニック・グループで完結せず、他のグループや政府との関係、ホスト国の主流社会からどう見られていたかなど、多角的な研究、(5)日本の研究者は国外の受け手にも研究成果を発表するべき、という5点の提起を頂いた。

 これを受けて、討論者から、ご自身の研究にもとづいて、エスニック・メディアとコミュニティ、階級、ジェンダー、ナショナリティなどとの関連について指摘を頂いた。

 さらに、参加者からは、「エスニック・メディア」という切り口の有効性、インターネット時代におけるエスニック・メディアの変容、エスニック・メディアにおけるジャーナリズム性と商業性の関係、日米の研究手法の違い、といったさまざまな観点について質問や意見が出された。

 今日、エスニック・メディアは大きく変容しつつある。1つには、メディアそのものが、かつてのような活字メディアから、インターネットに代表される新しいメディアも取り込むようになってきたという点である。もう1つは、グローバル化が進み、ますます、人やモノの流動性が高まり、かつてのような移民のメディアとしてだけではなく、一時的な越境者のメディアとしても、機能するようになっているという点である。したがって、エスニック・メディアに関する研究は、報告者が指摘するように、今後ますます、多角的、重層的に進める必要があろう。

 今回の研究会には、エスニック・メディアの先駆的な研究者から若い大学院生の方々まで、幅広い年齢層の参加者があり、活発な討論が行われた。そのため、参加者にとって、触発されるところの多い研究会となったと思われる。

(記録執筆:井川充雄)