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■ 第29期第7回研究会(理論研究部会企画)終わる


テーマ:「テレビCMの保存と文化研究の視点」

報告者:山 田 奨 治(国際日本文化研究センター)、高 野 光 平(東京大学・院生)
討論者:佐 藤 卓 巳(国際日本文化研究センター)
司会者:山 口 功 二(同志社大学)
日 時:2004年1月31日(土)、13:30〜16:00
会 場:国際日本文化研究センター
参加人数:33名


 理論研究部会では、国際日本文化研究センターの協力を得て、同センターのCMアーカイブを利用し、まだまだ未開拓であるテレビCM史の研究方法の模索を意図して研究会を開催した。そのためには、CMを文化資源としてとらえ、商品文化、情報文化の視点で再考する必要がある。このために、報告者高野光平が執筆発表した論文「テレビCMの保存の現状と問題」『文化資産』創刊号、「テレビCMの考古学」『思想』2003年12月号を参加者が読んできていただくことを求めた。

 報告者の高野によれば、民放テレビが開局して50年が経過し、それに伴ってテレビCMも50年の歴史をもつに至った。テレビCMの歴史は名作CFと「その制作者が織り成す映像表現の発展的系譜、という単線的な枠組みで語られて」きた。こうした単線的な枠組みを報告者、山田奨治はCM史は絶えず、書き換えられていると論じ、「CM(作家)の『場所』−(杉山登志)の死と誕生」という表題で最初のCM(作家)杉山登志(1936-73)の作品と死後評価のダイナミズムを論じた。彼の代表作1961年の「森永チューインガム」CMから1971年「資生堂ビューティケイク 光と影」までをディスプレイに表示しながら、作品そのものからその評価の過程を描いてみせた。

 山田は、CMの歴史的な評価のためにもCMを文化資源として保存する必要があり、名作と呼ばれるものの影に埋もれている作品や、記憶の中に風化してしまった作品を確認する作業においてもCMアーカイブによる保存が不可欠であると提言する。CMのみならず、テレビ研究一般において、文化資産として蓄積されているコンテンツは限定的であり、印刷文化の研究と比べて体系的研究には資料的な困難がつきまとう。

 研究会は、二部構成になっていて、第二部では、日文研データベース化したCMを出席者それぞれに用意されたディスプレイを使用し、それぞれの関心のあるCM作品を議論するという形をとった。日文研のデータベースは、「全日本コマーシャル放送連盟(ACC)」との契約によって、当センター内で研究者が研究目的に利用することのみが許されているものであり、こうした著作権問題がCM史研究を限定的にしている理由でもある。

 出席者は東京や萩からの参加者、また4名の外国人研究者の参加もあり、メディア研究者のみならず、世界CMフェスティバルのプロデユーサーや映画関係者など、また関心の領域も宗教研究、CMと家族等、活発な発言が交錯する研究会であった。

 最後に、高野はテレビをめぐる状況が今日、急速に変化を始めているといい、「もう一度、コマーシャル・メッセージの実質とは何かを問い直し、理論の整備を進めるにあたって、テレビ考古学が果たす役割は小さくない」と結んでいる。
(記録執筆:山口功二)