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■ 第29期第4回研究会(マルチメディア研究部会企画)

テーマ:「テレビとインターネットの同時利用行動」

報告者:川喜田 尚(ジェイ・スポーツ・ブロードキャスティング)
    是永 論(立教大学)
司会者:田川義博
日 時:2003年10月22日(水)18:30〜21:00
会 場:NHK放送博物館 地下セミナールーム
参加人数:28名

 マルチメディア研究部会では,今期の活動の柱として,各種メディア間の関係性やバランス,とくに既存メディアの役割・機能の変化やリポジショニングに注目し,これに関わるテーマをとりあげていくことにした。その最初として,テレビとインターネットの関係について,両者の同時利用の実態をとりあげた。

まず,「同時利用を前提としたサービス事例」として,川喜田会員から,CS放送であるジェイ・スポーツ社の,テレビ放送と連動した形でのインターネット経由のデータ配信について,具体的な番組とデータ配信の実施内容および結果の報告が行われた。「自動リローディング」を活用したデータ更新,eコマースの試みの紹介のほか,今後の2スクリーンの形態として,放送とインターネット情報の一つの画面での同時表示,モバイルを利用したデータ配信などの可能性も報告された。

 続いて「情報行動の並行性」に関して,是永会員から東大社会情報研究所「日本人の情報行動調査」データからSI(simultaneous information behavior)率などの分析結果が報告された。SI行動の理由として,メディア操作能力の向上による同時併行利用の増加,限られた「時間資源」の有効利用などが考えられる。また,今後の情報行動研究には,人々がどのような環境でメディアを利用しているかも含めて調査する必要があり,詳細なデータを多面的に取って分析するエスノグラフィックなアプローチが必要になるのではないかとの指摘があった。

 報告を受け,「2スクリーン利用や同時並行的情報行動をする人々は,アクティブなのか,受身の情報行動なのか」「テレビ視聴とインターネット利用が,いわば足し算の形で利用されているケースと,テレビ視聴とインターネット利用が連動せず,情報行動が拡散していくケースの二つがある。このそれぞれは,持っている意味合いがむしろ正反対なので,分けて議論すべき。」「情報の拡散と統一の観点からは,それぞれのメディアの情報が統一できれば,おもしろい情報として皆に受け入れられる。また,そこにどう参加していくのかが問題になる。この参加型の行為が番組編成にも,従来とは異なった形で反映されるようになるのではないか。」「従来の視聴者論は供給者側からた見た論議だが,同時並行的情報行動論では,人間がどういう行動をするのか,そのときに,メディアをどう使いこなしているのか,という視点。両方が相互に補いあう関係にある」「従来はメディア間の競合という視点で議論していたが,人間の情報行動全体の中で,メディアがどう関わっているのかという視点が必要。メディア相互の比較に留まらず,人間の情報行動の影響関係を考える必要があるのではないか」など活発な議論が展開された。