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■第29期第3回研究会(放送研究部会企画))終わる
テーマ:「武力攻撃事態法にもとづく指定公共機関制度と放送の自由」

報告者:本橋 春紀 (日本民間放送連盟)
司会者:服部孝章(立教大学)
日 時:2003年10月20日(月)18:00〜20:00
会 場:立教大学12号館 地下第二会議室
参加人数:10名<

 放送研究部会では,2003年6月6日に成立したいわゆる有事関連3法が放送機関に及ぼす影響を議論することとした。

「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国および国民の安全の確保に関する法律」(以下,武力攻撃事態法)は,日本に対する外部からの武力攻撃の発生,その発生の明白な危険が切迫しまたは予測される事態への対処方針を定め,NHKをはじめとする公共的機関および通信等の公益的事業を営む法人で政令で定めるものを「指定公共機関」と呼び(同法2条6項),「国及び地方公共団体のその他の機関と相互に協力し,武力攻撃等への対処に関し,その業務について,必要な措置を実施する責務」(同法6条)を負わせ,有事の際には(1)警報の発令および解除(2)武力攻撃事態の状況の推移(3)避難の指示および解除,といった事項の放送が,放送関連の指定公共機関に対して要請される。

報告者の本橋氏はまず,この法に関する認識が深まっていない点,発表されている論考についても憲法9条からの議論は見られるが同21条からの考察がほとんど無い点を指摘し,学界・報道機関双方での議論の広がりを求めた。

そして報告者から,(1)報道機関でもある放送局が制度的枠組みに取り込まれ義務を課せられると国民の知る権利への奉仕という使命が制限されないか,(2)放送機関は指定の如何に関わらず緊急情報の放送を行ってきているので敢えて枠組みを制定する必要があるのか,(3)武力攻撃事態法は災害対策基本法が下敷きになっているとされるが人為的に引き起こされる武力攻撃事態を同様に扱うことができるのか,(4)実際の攻撃が行われていない武力攻撃予測事態は,情報を独占している政府の判断が優先するので検証不能のまま放送することにならないか,(5)武力攻撃事態における放送計画について首相と事前協議することになっているが政府介入の余地が生じるのではないか,(6)首相の“総合調整”に服することによって放送内容に介入される恐れは無いか,といった問題提起がなされた。

 橋本氏の報告を受けて参加者から,「政府命令による放送と指定公共機関に指定された上で協力するのでは意味合いが全く違う。状況を措定しづらくなり領域が曖昧化する」,「指定を受けようが受けまいが,国民の生命と財産を守るのが放送機関の使命である」,「有事における報道に関する議論を今一度深める必要がある」「放送機関だけでなく新聞社を含めた報道機関全体への影響が危惧される」などといった意見が寄せられ,活発な議論がなされた。

(記録執筆:清水 真)