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■ 第29期第2回研究会(メディア史研究部会企画)終わる


テーマ:「民族社会学のナショナリティと宣伝学の知」

報告者:福間良明(京都大学人間・環境学研究科研修員)

討論者:難波功士(関西学院大学社会学部)

司会者:佐藤正晴(明治学院大学社会学部)

日 時:2003年10月10日(金)18:00〜20:00

会 場:日本新聞協会中会議室(プレスセンタービル7階)

参加人数:15名


当研究会では、福間氏より「日中戦争と民族社会学の構想−高田保馬」と「民族という知の収集と位階構造の再生産−小山栄三」の2点に関する報告があった。

「日中戦争と民族社会学の構想−高田保馬」では、高田が1930年代後半より民族を主要な社会学の考察対象として見出すにいたった契機として日中戦争があげられる。高田によって構想された民族社会学は、人類学的・民俗学的な民族研究とは異なった「日・満・史」の共時的な統合を模索する学問と考えられた。高田は民族について「新しき目標」のもと、能動的・自発的に生成されるものと考えており、複数の民族を一括りに包摂する「広民族」という概念を導き出し、「東亜協同体論」に結び付けていった。さらに民族社会学において東亜共同体論を取り入れながら、社会学的に「東亜民族」「東亜協同体」の議論を展開していった。特に高田の東亜民族論は「東亜」の境界を超え、「大東亜」を包摂し得るものになっていく。高田の東亜民族論でもっとも重視したのは「西洋」に対する「東亜の自衛」であり、政治的協力であった。「東亜の自衛」を可能にするためには、「日本」を頂点とした位階構造が強固に作られるべきであり、「東亜」の他の民族の抑圧は正当化された。高田は社会学を用いることで、「科学的」に時局や体制を支持する論理を構築できたのである。

次に「民族という知の収集と位階構造の再生産−小山栄三」では、調査・統計に重きを置いて「東亜」「大東亜」を論じたことで知られる小山の民族認識も、動態性を強調する点では高田と共通している。だが、小山は独自に調査対象たる民族そのものの変化しつつある実態、動態的な動向の提示を志向した。この際、調査で得られた知識に対応した「政策」的な対処のうえで、有効性を有するものとして見いだされたのが小山の新聞学・宣伝学ある。小山はドイツ公示学を参照しつつ、新聞=マス・コミュニケーションによる統合機能と強化機能を強調した。「民族」の「異質性」を見出すものとしての民族学/民族社会学と宣伝学が「問題」の「発見」と「解決」のために有機的に結び付けられ、相補的に絡まり合いながら、「異質性」を根拠に「日本」を頂点とした「大東亜共栄圏」のヒエラルキーを構造化したということであった。最後に「動態的な民族意識と位階構造の再生産」という観点からまとめをされた。

討論者の難波氏からは、小山栄三の新聞学・宣伝学・民族学におさまらない要素の存在、宣伝学の社会的機能の分析可能性に関する指摘があった。参加者からは難波氏の指摘をうけた形で辺境の概念、戦中から戦後への小山の宣伝研究に関した意見の交換が活発に行われ、有意義な研究会であった。

(記録執筆:佐藤正晴)