研究会一覧に戻る

■ 第29期第1回研究会(ジャーナリズム研究部会企画)終わる
テーマ:「メディア規制立法とメディアの現在そして近未来」

報告者:臺 宏士(毎日新聞社会部記者)
    秋吉 穫(日本経済新聞法務室長)
司会者:五十嵐二葉
日 時:2003年9月19日(金)18:00〜20:00
会 場:日本新聞協会大会議室(プレスセンタービル7階)
参加人数:20名


 99年8月に「住基ネット」導入を柱とする住民基本台帳法の改定にはじまるメディア規制立法の動きについて終始取材し,報道してきた臺氏は,この「戦後メデイア史上初めての一致した取り組み」であったばかりか,表現者,市民団体も協働しての広範囲の言論規制反対の運動が,02年5月の新聞協会会長会社からの「与党からこれ位ならいつでも応じる」と言われた修正案提案以降「一枚岩にひびが入って」「協会の問題」から結果的に「各社別の問題」になって行った経過を自由民権運動が板垣退助,後藤象次郎を入閣させた政治の動きによって終息して行った歴史を思い起こさせると語られた。そして細田大臣が「会社四季報」は報道ではないと言うなど規制の基準を政治権力が判断して行くという本音が見え始めている今,いったん法律が成立してしまうと記事になりにくい中でこれからの運用を監視して報道する困難な作業に取り組んで行く必要を説かれた。

 当初予定されていたがやむを得ない事情で参加できなくなった鈴木規雄朝日新聞「報道と人権委員会事務局長」に代り急遽お願いした秋吉氏は,99年8月以降,政府諸機関の法案に向けての詳細な動きをレジュメとして急遽準備していただいたうえでメディア側としてのこれまでの活動を総括して「(1)メディア規制の法制化が国民生活へ及ぼす影響を国民に説明する努力は十分にしたか」「(6)公権力との決定的な対決は避けようと言う意識はなかったか」等6項目の厳しい自己批判と報道がそうなりがちな理由を自己分析された報告だった。

 両氏のご報告はジャーナリストの明晰な目と真情にあふれ,日本のジャーナリズムの健在を信じられるすぐれた論説だった。

 その報告を受けて,今後もますます多発されるであろう規制立法に対処して行かなければならない「メディアの現在そして近未来」を討論するために,司会からあえて論点を提示した。現在世界的に国民国家は崩壊の危機感からあらゆる面での規制を強化している。そのなかでのメディア規制は市民規制と常にセットである。両報告にもあったが,その国民の権利を守り,協働することなしにはメディア規制に反対する闘いは出来ないのではないか。直近未来のメディア規制は行動規制(例=裁判員への接触禁止)報道内容規制(「著しくプライバシーを侵害する報道」)から有事法制に条項化されている協力要求(消極的には政府批判の規制 積極的には政府広報機関化)に拡張される。これに対する共同の闘いをどう作っていくのか。

 会場から活発な発言が続き,「政府のメディアと国民を分断する作戦に対応できなかった」「個人情報が金科玉条とされ報道が狭められていく」「秋吉総括の(6)などマスメディア経営者は受け入れない体質なのではないか」「メディア規制法反対集会で市民からメディア批判がでていた」「報道を代表する職能がないのが問題だ」「これからもっと重大な規制法が出されるがどう対応するか」等。討論の時間がいかにも少なかったのが残念だった。この論議をメディアと言論に従事する人と市民のすべてによって,早急に繰り返し機会を設けて深め具体化することが喫緊の課題ではないだろうか。

(記録執筆:五十嵐二葉)