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■第28期第14回研究会(国際交流委員会企画)終わる


  テーマ:「メディア・リテラシーのグローバルな展開と実践
                  :その基本概念と基本的条件」
     −Developing Successful Media Literacy
               : Key Concepts and Key Factors−

  報告者:ジョン・プンジャンテJohn Pungente
     (Canadian Association of Media Education Organizations [CAMEO]会長/
                  Jesuit Communication Project主宰者、Canada)

  討論者:宮崎寿子(東京工科大学)
  司 会:鈴木みどり(立命館大学)
  日 時:2002年8月 5日(月)17:00〜19:30
  場 所:立命館大学末川記念会館ホール
  参加人数:26名
  記録執筆:鈴木みどり

 現在、日本では学校教育、生涯教育などでメディア・リテラシーの実践の必要性が語られるようになっているが、この動きは今後どのような方向に向かうのだろうか、また、向かえばよいのだろうか。今回の研究会では、カナダからメディア・リテラシーの先駆者であるジョン・プンジャンテ氏を迎え、これまでの氏の20数年にわたる世界各国での経験を踏まえて、カナダおよび各国での実践と展開についてご報告をいただいた。

 報告は、前半で、メディア・リテラシーはメディア・バッシングではなく、「マスメディアの特性、使われるテクニック、その効果について十分な情報を得て、クリティカルな理解を深めることができるように援助するものであること、また、その目標には、メディア作品をつくりだす能力の育成もふくまれている」という定義から始まり、そうしたメディア・リテラシーのすべての取り組みで理論的基盤となる8つの基本的概念について、最新のテレビ番組などから採られたさまざまなビデオ素材を使いながら説明が行われた。

 その上で、後半では、世界各地で実践されているメディア・リテラシーの取り組みの分析研究を踏まえ、メディア・リテラシー教育の展開を成功させていくために重要な9つの条件について語られた。すなわち、1)草の根の活動でなければならず、すべての市民が率先してその発展のために積極的に働きかけていく必要があること、2)教育機関がカリキュラムの開発と資料の入手を可能にして、確実にサポートするべきこと、3)大学などの高等教育機関が、この分野の教師を養成することのできる人材を雇用し、メディア・リテラシー教育のコースを設けるべきこと、4)メディア・スタディーズの特性に合致する適切な評価尺度が必要であること、5)メディア・リテラシー教育には多様なスキルと専門性が必要であるので、教師、親、研究者、メディア専門家のすべての連携がなければならないこと、などである。

 以上の報告を受けて、討論者の宮崎寿子会員から、次のような3つの点で問題提起が行われた。すなわち、1)プンジャンテ氏の9つの条件を日本に当てはめると、カナダなどとは、文科省の姿勢の違いやシステムの違いがあり、教育から入っていくのは難しい。日本ではNPOなどの市民組織のイニシアティブで展開している。このことについてどう考えればいいか、2)カナダでは、制作者との協力体制がなぜ可能になったのか。チャムテレビジョンはどのような役割を果たしているのか、B2003年に予定されている「国連情報社会サミット」(WSIS)へ向けて、国際メディア・コミュニケーション研究学会(IAMCR)をはじめ研究者が積極的に発言していく動きをみせているが、日本のマス・コミュニケーション学会では、このようなアクションをとることがないし、積極的には何もしない。これでいいのか。研究者のアソシエーションは社会に対してどのような働きかけが可能なのか。

 その後の参加者全員をふくめた討論では、まずプンジャンテ氏から、学校教育にこだわる必要はなく、国や地域の事情によってさまざま取り組みが可能であること、やれるところから始めるのがベストである、との発言があった。また、参加者からは、メディアによる取り組みは日本でも試みられているとの発言や、研究者のアソシエーションの役割について、とくにマス・コミュニケーション学会の積極的な行動を求める提案もあり、活発な議論が続いた。多くの示唆に富む、有意義な研究会であったといえよう。