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■ 第28期第11回研究会(理論研究部会企画)終わる


  テーマ:「女性を定義すること、そしてメディアの女性定義」

  報告者:江原由美子(東京都立大学)
  討論者:加藤春恵子(東京女子大学)
  司  会:土橋 臣吾(武蔵工業大学)
  日 時:2002年4月22日(月)18:30〜20:30
  場 所:東京ウィメンズプラザ視聴覚室C
  参加人数:30名
  記録執筆:土橋 臣吾

 理論研究部会では、今期のキーワードを「ジェンダー」に定めて、研究活動を続 けてきた。その過程で、「ジェンダーとメディア」という問題設定がメディア研究のなかでどのように位置付けられるべきかについて、さらなる検討が必要であることを確認するに至った。これを受けて今回の研究会では、フェミニズムとマクロな社会理論との接合を試みている江原由美子氏を報告者に迎え、江原氏の議論を手が かりにしつつ、ジェンダーを軸に今日のメディアの現実と社会理論研究の交接点を 探ることを目指した。

 まず初めに江原由美子氏から、「女性を定義すること」をめぐって、昨年刊行された『ジェンダー秩序』の議論を踏まえての報告が行われた。報告では、まず「定義すること」と「支配すること」の関係についての再考がなされ、「定義」と「支配」の同時性/同義性が確認された。その上で、「行為解釈枠組み」としてのジェンダーという視点が提示され、男性の行為と女性の行為に対する解釈枠組みに不均衡が存在すること、また、そうした解釈枠組みを正当化し、それへの抵抗を困難にする装置としてジェンダーが機能することが示された。さらに、メディアとジェンダーの関係については、「伝える内容がはらむジェンダー」とメディアを通じて蓄積された「過去の文化がはらむジェンダー」という二つの次元が指摘され、メディア自体が不均衡な行為解釈枠組みを前提とした「ジェンダー秩序」を強化する役割を果たしていることが示唆された。

 続いて加藤春恵子会員から、今日のような変動期のメディアにおけるジェンダー を考えていく際には、その両義性を見通していくべきであるという意見が提示され た。その上で、江原氏の報告の理論的枠組みとの関連において、支配の再生産の側面だけではなく、変動の可能性をも同時に視野に入れていく必要があるとい う指摘がなされた。

 その後の参加者全員による討論では、幾つかのテレビドラマやドキュメンタリー の作品における「女性」「男性」の語られ方、また、そうした語られ方に対するオー ディエンスの解釈の問題などの指摘を交えて、個々の事例に関する具体的な議論 がなされた。また、個々のメディアテクストのみならず、テレビというメディアが造形してきた生活様式へ焦点を当てる必要性も指摘され、これについては、そうしたメディアをめぐる生活様式自体がジェンダー秩序を再構築している点などが確認された。

 いうまでもなく、今回のテーマである「女性を定義すること」は、メディアに限らずあらゆる社会過程において問われるべき問題であり、こうした大きなテーマを経由してメディアをめぐる考察へ還っていくことは、メディア研究におけるジェンダーの位置付けの再考という今回の目的にとって有意義であった。また、そうした議論を受けての具体的な事例についての討論も、個々の分析が理論的にどのような意味を持ちうるのかを考えていくひとつのきっかけとして、示唆に富むものであった。