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■ 第28期第8回研究会(理論研究部会企画)終わる


  テーマ:「メディアはどのようにして「ジェンダー」を構築するのか?
      ―英国のメディア状況とcultural studies における'gender'を
       キーワードとする研究を手掛かりにして―」


  報告者:飯塚浩一(東海大学)
  討論者:吉本秀子(山口県立大学)
  司  会:野原 仁(城西国際大学)
  日 時:2002年2月25日(月)18:00〜20:00
  場 所:日本新聞協会会議室(プレスセンタービル7階)
  参加人数:20名
  記録執筆:野原 仁

理論研究部会では、今期の研究におけるキーワードとして「ジェンダー」を選び、さまざまな視角からメディアとジェンダーに関する理論面の検討を行っている。今回の研究会では、これまでの成果をふまえた上で、日本の社会状況・メディア状況のなかでメディアが「ジェンダー」をどのように構築しているのかを包括的に検討していくための、共通の理論的枠組みを構築する手がかりを探ることを目指した。

 まず初めに飯塚浩一会員から報告が行われ、(1)日本のメディア研究における「ジェンダー」概念が、フェニミズム運動そのものが持つ政治性を背景に、[男性=支配 女性=従属]という暗黙の価値前提を含んでおり、このことがメディアとジェンダーに関わる研究を専門とする研究者が比較的少数(しかもその大部分が女性)にとどまるという現状にもつながっているのではないか、(2)英国のcultural studiesにおけるgenderをキーワードとした研究およびgender概念そのものの構築主義的なとらえ方を参考にした上で、日本のメディアとジェンダーに関する研究は、理論面における全体の見取り図および個々の研究の役割・全体での位置づけを明確にしていく必要に迫られているのではないか、などの問題が提起された。

 続いて吉本秀子会員からは、飯塚会員の報告を受けて、専門の国際コミュニケーション論やアメリカでの研究動向を例に、理論面における党派性の陥穽を避けながら、「ジェンダー」を構築するマス・コミュニケーション過程の分析にも他分野における意味構築過程の研究成果を積極的に取り入れていくことが求められているのではないかという指摘がなされた。

 その後の参加者全員による議論では、これまでの日本のメディアとジェンダー研究への批判的再検討の必要性と同時に、飯塚会員が指摘した「ジェンダー」概念の価値前提性については初期の研究には散見されるものの、近年の研究ではそうした性質は研究者も意識的に回避しているという意見や、日本の研究ではアメリカとは異なって意識的に量的研究と質的研究の融合を目指してきたという指摘が出され、また日本では個々の研究の成果が理論化を意識していなかったのではないか、という問題も提起された。

 今回の目的のひとつは、「メディアとジェンダー」の問題を切り口として、「理論面から見て、個々の研究がどのような意味と役割を持っているのか、研究者はどこまでそのことを自覚しているのか」という、日本のメディア研究全体にかかわる重要な問題提起をすることであり、その意味では今後の議論に向けての第一歩として有意義であった。また、これまでのメディアとジェンダーに関わる研究を再検討するとともに、「日本のメディアがジェンダーをどのように構築しているか」を包括的に考えるにあたってcultural studiesの成果をどのように生かしていくべきかという点についても非常に示唆に富む内容であった。