研究会一覧に戻る

■ 第28期第7回研究会(マルチメディア研究部会企画)終わる


       テーマ:「移動電話サービスのグローバル展開と利用者の情報行動」

  報告者:ミカエル・ビヨルン(日本エリクソン社消費者研究室)
        羽渕  一代(弘前大学)
  司 会:岡田 朋之(関西大学)
  日 時:2002年2月16日(土)14:00〜16:00
  場 所:NHK放送文化研究所3階301会議室
  参加人数:15名
  記録執筆:岡田 朋之

 現在におけるメディアとしての携帯電話の位置づけを見ると,「iモード」に 代表されるインターネット接続サービスが普及したことで,単なる通話だけでな く,メール交換やウェッブ利用といったマルチメディア的な方向での発展が著し い。とくに2002年からはヨーロッパなどでも「iモード」のサービスが展開され るなど,グローバルな見地からみれば,「モバイルインターネット元年」とも言 える状況となっている。     
     今回はまず,こうしたサービスが受け入れられる素地などについて網査研究を 進めておられるエリクソン杜のミカエル・ビヨルン氏にお話しいただいた。エリ クソン社が実施した,エンドユニザーのコミュニケーション・テクノロジーにか かわる態度に関する網査結果によると,ユーザーの志向や傾向は各国でそれはど 際だった違いがあるわけではないという。世界的に見てモバイルインターネット が日本だけ突出して普及する一方で,他の国々でそれはど普及していない理由と して,ユーザーのニーズがないためだ,といわれることが多いが,かならずしも それはあてはまらないというのである。こうした,日本とそれ以外の国々でのモ バイルインターネットにおける普及の差は何に由来するかという点について,ビ ヨルン氏は,日本では事業者からエンドユーザーまでのサービスの垂直的統合が 形成されていることが大きく影響していること,すなわち,業界事情による点が 大きいことが挙げられた。
 続いて羽渕一代氏からは昨年の韓国でのインタヴュー調査などに基づいて,日 本における状況との共通点と相違点,利用者のコミュニケーションについての考 察がなされた。
 羽渕氏によれば,日本の若者の場合はぼ全員が利用するまでに普及するなかで, 人間関係が希薄化しているのではないかという識者の指摘があるものの,実際に は友人関係のコミットメントが選択的になっているのであって,その際の有力な 手段として携帯電話のメール機能や発信番号表示機絶など,さまざまな付加機能 をフルに利用しつつ,状況に応じて必要な関係性に深くかかわるという「選択性」 が現代日本の若者の交友関係の特徴として描き出されるという。
 韓国においては,発信番号表示がオプションサービスのため,それはど普及し ていなかったものの,その他のメールなどの機能の使われ方は日本の若者の場合 とさほど差はない。また,日本において犯罪や非行などと結びつけられがちな, 携帯電話のネガティヴな社会的イメージは,韓国においてはそれほどみられない という。
 羽渕氏はこれらの点を紹介した上で,質的調査だけではなく,もっと量的な検 討をふまえた調査研究が求められるとした。
 以上の報告を受けた討論の中では,質的調査におけるサンプルの代表性の問題 が指摘されたはか,携帯電話が犯罪と結びつけられるのは匿名性の問題が大きく, 韓国では国民総背番号制が導入されているために匿名性と携帯電話が結びつきに くくなっているのではないかという意見があった。また,欧米でモバイルインタ ーネットについて懐疑的となる風潮については,以前にWAPの普及がはかられた際 に,一般ユーザーのニーズとかかわらないところで展開したことが失敗だったこ となどが話し合われた。
 以上の点をまとめれば,今回の議論では,国際的な調査研究を一層すすめてい く必要があること,そして技術的要因だけではなく,関連業界やマーケットなど の事情,社会・文化的背景などを総合的にとらえる研究がこの領域においても必 要とされていることが確認できた点できわめて有意義だったといえるだろう。