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■ 第28期第6回研究会(メディア史研究部会企画)終わる


  テーマ:「新しい歴史資料を検証する」

  報告者:錦織 正文(朝日新聞社)
        山名 哲史(経葉社)
  司 会:佐藤 正晴(尚美学園大学)
  日 時:2001年12月7日(金)18:00〜19:30
  場 所:日本新聞協会大会議室(プレスセンタービル7階)
  参加人数:14名
  記録執筆:佐藤 正晴

 今回の研究会では、最近次々にデジタル化された関係書籍や資料の内容をテーマに掲げ、朝日新聞社が企画した「戦前紙面データベース」と経葉社が企画したCD-ROM「同盟通信社『写真特報』コレクション」の二つを取り上げた。

 前半では、朝日新聞社電子電波メディア局データベースセクションアソシエートマネージャーの錦織正文氏より、昨年データベース化した「戦前紙面データベース 昭和元年〜9年編」と2002年夏に発売予定の「戦前紙面データベース 昭和10年〜20年編」の内容の概要と作成秘話をお話頂いた。昭和元年〜9年編は、CD−ROM39枚組みにまとめられており、検索データとして約4万2千6百ページ、36万6千件の記事が収録されている上、153万のキーワードで体系的な記事検索を実現している。朝日新聞東京版紙面を中心に当時の紙面イメージに直行している。記事の内容としては、航空記事が目立つという。作成する上で一番配慮したのは、プライバシー関係で刑事事件の被告等は検索できなくしてあるという。作成する上での一番の問題点は、「事象はあるがキーワードのない記事が続出」した点であったという。この点は、100人規模のスタッフでEメールやイントラネット(社内LAN)で情報の共有に努め、問題を克服したという。80万円という価格をつけているためなかなか売れないが、新聞の縮刷版利用者からの需要は高まるはずと考えているようだ。また今回は昭和期のCD-ROMであるが、戦争から離れた大正期も魅力的と考えているようだ。戦後のCD−ROMに関しても十分需要は考えられ、今後検討していくとしている。

 後半では、株式会社経葉社編集・製作マネージャーの山名哲史氏より、CD−ROM「同盟通信社『写真特報』コレクション」についてお話いただいた。内容は「宮武外骨編集絵葉書類別大集成」にまで及んだ。『写真特報』は日刊10万部頒布のニュースビラで戦争中のスクープ写真が多数掲載されている。戦前の「空気」を知るための第一級の資料であり、当時の日本人の日常を生き生きと伝えている。画像については最新技術による高精細である上に補正したものまでも収録している。また最大の特徴であると考えられるのは文章記事部分をすべてテキスト化することによって横断的な全文検索が可能なデータベースになっている点である。

 「宮武外骨編集絵葉書類別大集成」では外骨が蒐集し分類した絵葉書2万8000枚をすべてフルカラー画像で、アルバム原本のページそのままの形を再現してCD-ROMに収録している。さらに絵葉書一枚一枚を絵葉書につけられたタイトルなどからフリーワード検索することができるデータベースを構築している。

 これによって、外骨晩年の編集著作の全貌が広く一般の目に触れることになり、外骨研究に一石を投じるものとなっている。また、女性の髪型から都市や農村の生活、戦争や軍隊、災害の実像といった戦前の人々の表情や風土、生活や風習までが収められたデータベースは、近代日本をめぐるさまざまな分野の研究者に資料の宝庫を提供している。

 今回の研究部会からは、メディア史研究者のみならず近現代史研究者にとっても「資料のデジタル化」が朗報であると考えられ、参加者からは活発な議論が繰り広げられた。