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■ 第28期第5回研究会(放送研究部会企画)終わる


  テーマ:「デジタル放送と在阪民放局の戦略」

  報告者:山 村 啓 介(朝日放送)
          司 会:難 波 功 士(関西学院大学)
  日 時:2001年12月6日(木)18:30〜20:30
  場 所:KGハブスクエア大阪B会議室(茶屋町アプローズタワー13F)
  参加人数:20名
  記録執筆:難 波 功 士

 デジタル化、多メディア・多チャンネル化の流れの中で、いわゆる「準キー局」はどのような戦略をとろうとしているのか。今回の研究会は、在阪民放局の現状と今後の可能性について考えるきっかけとなればと企画され、山村啓介氏(朝日放送編成制作局企画開発部次長)に問題提起をお願いした。

 山村氏からの報告は、氏の長い制作現場での経験をふまえ、朝日放送の歴史をふりかえりつつ、デジタル化にむけての問題点を、技術面および編成・営業面から指摘するものであった。特に朝日放送の場合、「より地域に密着し、地域文化の発展に貢献することを目指した番組」である「ホーム番組」づくりにとりくみ、地域情報(バラエティ)番組に一定の成果をおさめてきた経緯についての詳細な説明があった。

 この報告に触発されるかたちで、出席者から多くの意見・質問が出されたが、当日の出席者の半数は在阪放送局に所属されている(されていた)方々であり、報告者とフロアとの応答というよりは、それぞれの論点について知識・見解をお持ちの方が随時発言するという、フリー・ディスカッション形式で進められた。

 まず出されたのは、在阪民放局のCS放送への取り組みに関連して、「関西ならでは番組づくりをしつつ全国向けの情報発信は可能か」という論点であり、CSの「京都チャンネル」の事例を中心に議論が展開した。そして、微にいり細にいり京都を描くそのコンテンツをもっとも堪能し、実際に契約・視聴しているのは京都在住者ではないか、という意見に対しては、同番組での京都の描き方は、CS番組の予算的な制約によるものであり、さらにスカイパーフェクトTVの場合、チャンネルのパッケージ販売・契約が主であるため、各チャンネルのユーザー像はつかみにくいとの応答があった。京都チャンネルとBSデジタル放送と地上波放送の深夜時間帯とで、同一番組をマルチユースした試みの紹介や、京都チャンネルに表象される「京都」像の是非についての意見も出された。

 また、山村氏の制作実務経験に即した質問――大阪での関西地域向け番組制作と、東京での全国向け番組制作との違いや、氏の仕事が「 お笑い」と「情報バラエティ」に大別できる点に関連して、それぞれの違いなど――も多く出された。

 こうした議論を通じて、各局・各人間の相違はありつつも、在阪民放局が、全国区であろうとする動きとローカルに徹しようとする動きとの揺らぎの中にあり続けた点、そしてデジタル化がその両方向への動きを両立させうる可能性とともに、どちらに対しても中途半端な対応となってしまいかねない危険性を秘めている点などが確認できたように思う。多メディア・多チャネル化の流れの中、あるべき関西発のコンテンツについて、現場ではさまざまな模索が進行していることを、研究者の側はどのように受けとめるべきか。今後の課題を整理し、考えを深化させるきっかけづくりの場として有意義な研究会であった。