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■ 第28期第2回研究会(放送研究部会企画)終わる


テーマ:「訂正放送制度の運用実態と課題」

  報告者:田 島 泰 彦(上智大学)
      海 部 山 男(日本放送協会)
  司 会:市 村   元(東京放送)
  日 時:2001年9月14日(金)18:30〜20:30
  場 所:日本新聞協会大会議室(プレスセンタービル7階)
  参加人数:18名
  記録執筆:市 村   元

 今年7月18日,NHKの番組をめぐって名誉毀損・プライバシー侵害が争われていた訴訟で,東京高等裁判所は,放送法4条に基づく訂正放送を命ずる初めての判断を下した。本研究会は,放送法第4条を私法上の権利とした同判決内容を検討するとともに,訂正放送の履行実態から浮かび上がる同規定の問題点等を議題とした。
 問題となったNHKの番組は,妻から離婚を言い出された夫の心情をインタビューで構成したものだが,1審の東京地裁が,同放送でプライバシーの公表があったことを認めながら,報道の社会的意義との比較衡量で,権利侵害を認めなかったのに対し,控訴審判決は,一転して,名誉の低下,プライバシーの侵害をいずれも認め,損害賠償と訂正放送の実施をNHKに命じた。事実経過を報告した海部一男会員は,離婚についての夫の認識を取り上げることが「真実でない放送」と言えるのか,また,放送法の規定を説明もなく民法上の権利とした判断は如何なものか等の問題点を指摘。会場からは,妻側の言い分を全く取材しなかったことは番組の意味合いを考慮しても不備だったのではないかという意見や,明白な事実の誤りとは異なる同放送の問題は訂正放送になじまないとする意見が出された。
 一方,田島泰彦会員は,訂正放送の履行実態を,総務省への報告事例から検討し,事例そのものが少ないこと,届け出された内容も訂正放送とするに適正な事例と言えないものが多い等の実態を報告。その上で,「真実でない放送」の「真実」かどうかに関し,免責法理を適用する可能性が検討されるべきであること,罰則規定があること,の問題等に触れ,さらに,裁判所が私法上の判断として直接訂正放送を命ずるのは制度の基本的枠組みと合致しないのではないかとの見解を述べた。参加者からは,放送局の訂正放送の運用実態があまりにも恣意的であり,放送局自身が訂正放送の意義をきちんと自覚していないとする意見や,第三者機関等による被害者救済の枠組みが整備されないと,この種の係争の解決が司法に持ち込まれるケースが増えるのではないかとする危惧が表明された。また,放送法の規定そのものの曖昧さをきちんとしたものにする必要があるのではないかとする意見や,放送局自身が,訂正放送の実施についてより真摯な姿勢を示さない限り,司法の介入や権力の介入が避けられないのではないかとする意見が交わされた。